このマガジンは、様々な形で暮らしに「ハタケ」を取り入れている人やその暮らしの紹介を通じて、自然と自分、双方を愛せる生き方を提案するライフスタイルメディアです

6月のテーマは「ハタケと子ども」

自然にもっと触れる機会がほしい、子どもに自然体験をさせたい、といった気持ちから休日に自然のある場所へ足を運ぶ方も少なくないのではないでしょうか。今回は神奈川県の山間部、面積の9割が森林という足柄上郡山北町から、自然と共に暮らす藤江雅也(ふじえまさや)さん・結真(ゆま)さんご夫婦をご紹介します。

雅也さんと結真さんは2人のお子さんを育てながら、「こどもとしぜんのがっこう Koru Nature Design(コルネイチャーデザイン)」をオープン。自然環境の中で保育をする「森のようちえんハレノヒアメノヒ」や、子育て中の保護者の居場所となる子育て支援「Koruのタネ」、週末には小学生向けの自然体験活動「自然がっこうKoru」などを行い、地域の方や子どもたち、そして自然と共に暮らしています。

「調和と心地よさを大切にしている」というおふたりに、この場を立ち上げた背景と思いを伺いました。

子どもたちの「やりたい」にとことん向き合いたい

ハタケト:さっそくですが、しぜんとこどものがっこうKoru Nature Designについて教えてください。

雅也さん:ここは、人と人、人と自然がつながる場です。平日は森のようちえん「ハレノヒアメノヒ」、週に1回は子育て支援の場、週末には小学生向けの自然体験活動をしています。また月に1度は、パーマカルチャーのデザインを学び合う会や、保育士さんたちに自然との関わり方を教える機会もいただいています。Koru(コル)は、ニュージーランドの先住民マオリ族の言葉で、シダの葉っぱのことです。渦状の葉が、成長や調和の象徴とも言われているので、この場を人と人、人と自然の調和がとれた場所にしたい、という思いから「Koru Nature Design(コルネイチャーデザイン)」と名づけました。

(結真さん(左)と雅也さん(右)。縁側からはさくらんぼ、みかん、梅などさまざまな果樹が見えて、とても気持ちのいい場所でした)

ハタケト:元々お二人とも保育園で働かれていたそうですが、その時に感じていたことを伺ってもいいですか。

結真さん:わたしは私立の保育園に10年間勤務しました。最初の5年間はがむしゃらに働き、とにかく色々なことを吸収するのに必死でした。次の5年間は一緒に働いていた先生から、子どもの見守り方や子どものもつ力の引き出し方を教わり、保育の質や、本当に子どもたちのためになるものは何なのか、と深く考えるようになりました。その中で、国で定められている保育園での子どもの人数に対する大人の人数に限界を感じたんです。子どもの「やりたい」にちゃんと向き合いたいのに、時間の制約や大人の人数不足などの理由でその思いに答えることができない、そんな葛藤が続きました。

雅也さん:大きな組織には理念やルールがありますよね。それ自体が悪いとは思わないのですが、きまりが厳しいとあらゆる制限が多くなってしまい、子どもたちの自由がどんどんなくなってしまうんです。わたしも以前、保育園に勤務していたときに、そのきまりが大人のためなのか子どものためなのかわからなくなることがありました。もっと自由なかたちで保育がしたい、という思いが次第に強くなったのも、元はそうした疑問からです。

(「生きる力は全て暮らしの中にある」という考えを軸に、森のようちえんでは「暮らし」を大切に考えている)

雅也さん:ここでは朝、子どもたちに「今日は何しようか?」と、問いかけることから1日が始まります。暑いから川に行きたい、あの道にあるサルノコシカケを見たい、と色々な意見が出てきます。そうすると子どもたちから「じゃあ、サルノコシカケの道を通ってから川に行って遊ぶのはどうかな」という意見が出てくるんですね。時には、それできまりでいいの?と思うこともあるのですが、子どもたちが納得すればいい。なるべく大人の世界に引き込ませないように、と気をつけています。とはいえ子どもたちの意見を受け取った上で、自分たちの気持ちを折り込ませた活動をすることもあります。

ハタケト:なかなか子どもたちのしたいことが決まらない日もありますか?

雅也さん:もちろんありますよ!15分くらいで決まる時もあれば30分くらい話し合いをする時もあります。ただここは時間の制約もないので、子どもたちが納得するまで話し合うことができます。くじ引きで決める時もありますが、自分たちが最初から入ってまとめるのではなく、まずは子どもたちに任せてみる。子どもの社会を大切にしたいと考えています。

結真さん:時間やきまりにゆとりがあることで、子どもたちを急かさなくていいですし、何よりも子どもが自分で気がつくまで待てるという、心の余裕が自分たちにあるんですよね。

(遊び道具には、本物のフライパンや竹で作られた入れ物が使われており、身近な道具で集中して遊んでいるこどもの様子が印象的でした)

ニュージーランドの自然の壮大さに触れたことが独立への道を促す

ハタケト:こどもとしぜんのがっこう Koru Nature Designを立ち上げた背景を教えてください。

雅也さん:いつかは自分たちで保育園をつくりたいという気持ちはあったのですが、ニュージーランドに行ったことが大きく影響しています。現地の保育園で2ヶ月ほどボランティアとして参加して、子どもたちが大自然の中で自由に遊び、先生たちもとてものびのびと保育されている姿を目の当たりにしました。ボランティアに入っていない日は、ニュージーランドの山を4日間掛けて歩いたり、一日中湖畔でボーっと過ごしたりもしました。時間に追われない生活やのびのびとした保育現場を見たことで、自然と調和して生きることの素晴らしさを体感し、帰国後に結真さんと話し合った後すぐに独立することを決めました。

結真さん:わたしにとっても、自分がやりたい保育がちょうど見えてきていたところだったのでタイミングが良かったんです。そうと決めてからはすぐに物件を探し、最初に見た物件で、「こんなにいい場所は他にはない!」とその日に決めました。それがここです。

ハタケト:何が決め手だったのですか?

雅也さん:う〜ん、直感ですかね。まず環境がすごく理想的だと思いました。山の麓に位置していて、畑があり、海が見える。敷地の中には様々な果樹が植わっていて、何よりも元々住んでいた方のお人柄がとても素敵だったんです。繋がりを大事にしたいので、大きな決め手になりました。

(ゆったりとした時間が流れるお迎えの時間。初めてきた場所なのに、どこか懐かしく感じるようなあたたかい場所)

ハタケト:つい長居したくなる居心地の良い場所ですね。

結真さん:週に1回開いている子育て支援の日は、大人にとっても心地よいことを大切にしています。1人目の子どもを産んだ時、子どもと一緒に気軽に行けて、誰かと話せる場があったら良いのに、とずっと思っていました。だから独立する時は絶対にお母さんたちの居場所を作りたかったんです。今、コロナ禍の影響で子どもを連れて行ける場所がさらに限られてしまっているので、ここがあって本当にありがたい、と多くのお母さんに言ってもらいます。今は親子のご利用が多いですが、ゆくゆくは近所のおじいちゃんやおばあちゃん、誰にでも来てもらえる場にしていきたいですね。

(子どもも大人も居心地がいいのか長居してくれるんですよ、と笑顔で話す結真さん)

自然を感じることはどこでもできる。大切なのは心のゆとり

ハタケト:自然と調和した暮らしを大事にしたいと思う原体験はなんだったのでしょうか。

結真さん:子どもの頃育った場所の田園風景が大好きで、子どもたちには絶対に自然に触れさせたいという思いがありましたね。

雅也さんわたしも子どもの頃、父と山を歩いたことや田んぼで遊んだ経験が大きく影響していると思います。ただ人は誰でも、自然が気持ちいい、という感覚があると思うんですよね。近年、自然と人間を分けて考えられることが多いですが、昔の日本人にとっては目の前に自然があることが当たり前で、そもそも「自然」という言葉自体も存在しなかったくらい人間は自然の一部なので。それに、自然の一部だからこそ、自然を感じる暮らしがしたいと思ったらどこでもできるとも思っています。

(「一言に緑といっても自然には色々な緑がある、それがいいんですよね」と語る雅也さん)

ハタケト:都会に住んでいる方にすすめたい、暮らしに自然を取り入れる方法を教えてください。

雅也さん:大切なのは自然を感じようとする意識だと思います。毎朝窓を開けて外の空気を吸って、日々の空気の違いを感じたり、電車に乗るのにいつも急いで走るばかりではなく、10分ほど掛けてゆっくり歩いて駅に行くだけでも、急いでいる時には見えなかったものが見えてきます。大人はつい先のことばかり考えてしまいますが、今、目の前のことに意識を向け、もっとゆっくり生きたらいいんじゃないかなと思います。子どもたちは目の前のことに集中したり自然の神秘に目が向くので、つい違うことに意識がいっても、いつも子どもたちが引き戻してくれます。

あと、子どもと公園で遊ぶ時には、公園の真ん中ではなく端っこがおすすめですよ。都心の公園には大体垣根がありますよね。垣根のちょっとした隙間は、子どもたちにとって秘密基地になったり、いろいろな生き物がいたりして面白いんです。

それからハタケは一番わかりやすい命の育みですね。タネから芽が出て花が咲き、実をつけて枯れ、またタネとして命がつながっていく。こんなに身近なところで、いのちの始まりから終わりまでの一生を見届けられるなんてなかなかないですよね。庭やベランダで子どもと一緒に何かを育てるということもとてもいいと思います。

(敷地内のハタケや、みんなで作った池などを誇らしげに案内してくれた長男の葉介くん)

大きな目的は「地球を潤す」こと

ハタケト:自然環境がいいところで保育を実践して、何か感じている手応えなどはありますか。

雅也さん:まだはっきりとした手応えはわからないですね。もちろん日々の保育の中で子どもたちが成長する場面はたくさんありますが、子どもはそれぞれ違いますし、保育は数値で表すことはできないのでなんとも言えないんです。ただ、わからないからこそ楽しいと思っています。自分たちが信じるやり方で保育を続けて、子どもたちが将来どんな大人になるのかとても楽しみですし、もしかしたらその時初めて、何かしらの手応えを感じられるのかもしれません。

(「前の職場で保育をしていた子が週末の自然体験活動に参加してくれて、今でも繋がりがもてるというのはとても嬉しいことですね」と雅也さん)

ハタケト:今後どのような場にしていきたいですか。

雅也さん:より多くの人に自然と繋がる機会をつくっていきたいと思っています。都市部の子どもたちでも身近な場所で自然体験ができることを知ってほしいです。子どもの頃の原体験を思い出す人が増えれば、美しい自然を守るために何か行動する人が増えるかもしれない。コンポストを始めるとかゴミを拾うとか、なんでもいいんです。保育と自然から、地球を潤すきっかけをたくさん作っていきたいですね。自分たちだけでできることには限りがあるので、ここから次に繋いでくれる人たちを増やしていくことがわたしたちの役目だと思っています。

(インタビューはここまで)

子どもの成長を見守ることも、自然の美しさを感じることも大切なのは自分の心のゆとり。心にゆとりがあればどこに住んでいても自然を取り入れた暮らし方はできるのだと気づかされました。

お迎えを待っている子どもたちが思いのままに遊び、保護者の方と雅也さん、結真さんが話している傍ら、在園児のおばあちゃんがオレンジピールを作ってきたわよ〜と差し入れてくれる。そこはゆったりとした時間が流れ、まさに調和の取れた居心地のいい、また必ず訪れたくなる場所でした。

(おばあちゃんの差し入れの甘くておいしいオレンジピール。結真さんが「まさにこんな暮らしがしたかったの」と呟いていたのが今でも心に響いています)

今月のテーマは「ハタケと子ども」。畑のそばで子育ても仕事も楽しんでいるハタケトたちの考えに触れて、あなたらしい子育てや仕事の考え方を一緒に考えてみませんか?家庭の数だけ子育て観があるように、あなたが子育てで大切にしているコトがありましたらぜひ、ハッシュタグ #ハタケト を付けて、ツイッターまたはインスタグラムにお寄せください。また、ハタケトへの感想やリクエストなどもお待ちしてます。