このマガジンは、様々な形で暮らしに「ハタケ」を取り入れている人やその暮らしの紹介を通じて、自然と自分、双方を愛せる生き方を提案するライフスタイルメディアです。

4月のテーマは「パートナーシップ」

人間関係は、充実した日々を送る上で大切な要素。とりわけ多くの時間をともに過ごすパートナーや家族とは、お互いに居心地の良い関係でありたいですよね。

今回ご紹介するのは、仕事でもプライベートでも、ほとんどの時間を一緒に過ごしている「百家農園(ももかのうえん)」の百家 亮(ももか あきら)さん・由希子(ゆきこ)さんご夫妻。小学生のお子さんと3人で暮らしています。農園では、無農薬・無化学肥料の露地野菜を年間およそ100種類栽培しながら、ご自身で育てた野菜を販売する「百家農園ちいさな直売所」も運営しています。

仕事も暮らしも一緒に16年間を過ごしてきたおふたりに、それぞれの「こうしたい」を大事にしながらも、同じ方向を向いて歩んでいくためのヒントを教えてもらいました。

(おふたりが営む「百家農園ちいさな直売所」。栽培、収穫、袋詰め、販売など、全部自分たちの手で行います)

ふたりの理想の暮らしの共通点は「自然」

ハタケト:おふたりは、仕事も暮らしも子育てもぜんぶ一緒の環境ですよね。役割分担や気をつけていることについて教えてください。

由希子さん:どっちが何をするか明確には決めていなくて、自然とできる方がしているような感じです。

亮さん:例えば、子どものためというよりも、ぼく自身が子どもと関わることに興味があるから、積極的に子どもとの時間を過ごすようにしています。そのため子どもが生まれてから仕事の時間の割合は減りました。ただ、不思議と売り上げは変わらなかったですね。

由希子さん:子どもという大事にしたい存在ができたことで、時間の使い方が上手になってきたんだと思います。ただがむしゃらにやればいいってわけじゃないということに気がつきました。

亮さん:農家は仕事の中に生活があり、生活の中に仕事があるような状態です。仕事は基本的に妻とふたりでしていて、誰かと一緒に取り組むような趣味などもないので、もしかしたら、仕事と家庭のつながりしかないと寂しそうに見えるかもしれないのですが、毎日すごく充実していますね。

(バレンタインの時期の配達には、畑で見つけたハート型の紅大根の写真を添える遊び心)

ハタケト:以前からおふたりとも「仕事の中に生活があり、生活の中に仕事がある」ような暮らしを思い描いていたんですか。

亮さん:自然をよりどころにして暮らしたい、という思いはありました。ぼくは北九州の街中で生まれ育ち、高校からは埼玉の山の中にある寮付きの学校に進学したんです。北九州にいたときは自然を感じて遊べる場所もなく、星もあまり見えないことを普通だと思って生きてきましたが、高校で農業の授業を受けたり、「畑部」という部活動で芋を育てたり、田んぼでカエルの声を聞いたりするうちに、人間って自然から離れすぎると、身体や心に不調が生じるんじゃないかなって高校生ながらに思いました。

由希子さん:わたしは夫とは対照的に、自然のすぐそばで育ちました。実家ではヤギや羊など動物をたくさん飼っていて、その環境が大好きだったので、街で働くサラリーマンとの結婚生活は考えられなかったです。

亮さん:結婚当時はぼくが25歳で妻が22歳。若かったこともあって、「場所にこだわらずとにかく早く農家としての経験を積もう。3年経ってもまだ20代だし、違うと思ったらやめて違うことしたらいい」という軽やかな気持ちで、当時ご縁のあった福岡県宮若市に移住して農業を始めました。

(ご自宅前にはたくさんの野菜が芽を出していました。太陽の光をたっぷり浴びて、すくすくと育っています)

基準は「思い出になるほう」

ハタケト:移住も就農も、大きな決断だったのではないかと思うのですが、何かを決めるときに指針にしていることはありますか。

亮さん:迷ったら「思い出になる方を選ぶこと」を基準にしています。これは、結婚した時から変わらないですね。家があっても、家族とどれだけいても、お金があっても、死ぬときには何も持っていけないじゃないですか。最後は思い出しか残らないと思うんです。それなら何か思い出すエピソードがあったほうが楽しいと思いませんか。だから「思い出になるほうを選ぶこと」を何かあったときの指針にしているんです。

由希子さん:それと「とにかく楽しむこと」も大事にしていることのひとつです。これまでも何かを決めなくてはならない時は、「そもそも何のためにそれをやっていて、何のために生きていて、自分たちは何を求めているんだっけ?」という根っこの部分まで共有してじっくり話し合ってきました。この根本の確認を重ねていくことでふたりの大事にしたいことが明確になり、揺らがずに進んでいけるような気がします。

ハタケト:最終的なゴールを共有しているから、同じ方向を向いて歩めるのですね。逆に、一緒に暮らしたり、仕事をしたりするなかで意見が合わないことはありますか。

由希子さん:もちろんあります。小さなことですが、洗濯するときに靴下を表にしてほしいか裏返しでも気にならないか、トイレの窓は開けておきたいか閉めておきたいかとか(笑)。仕事のやり方でも、それぞれの「こうしたい」が相反するときは、同じやり方に統一することもあれば、別々のままのときもあります。

大事にしているのは「意見が違うから、分かってもらえないから、もういい」って投げやりになったり、無理にどちらかに合わせようとするのではなく、ただ違うんだなって認知することです。わたしたちの場合、人生で大事にしたいことの捉え方は同じですが、やはりそれぞれ違う人間なので、生活の中でのこだわりなど違うところもたくさんありますね。

ハタケト:百家農園のInstagramのプロフィール文には、「《楽しむために生まれてきたこと》このことを一番大切にして暮らしています」と書いてありますが、これもおふたりが生きていく上で大事にしていることなんですか。

亮さん:それもあるのですが、もうひとつ、この言葉に込めている思いがあるんです。就農当初、自然食品のお店に野菜を卸していたときに、買い物しているお客さんたちから「種は自家採取ですか?」「肥料は何を使っているのですか?」と聞かれることもありました。それが少し、「〜すべき」に囚われているというか、見えない何かと闘っているようにも感じられて、ぼく自身はおいしい、楽しい、心地いいという感覚を大事にしたいと思ったんです。ぼくたちの農業を言葉で表せば無農薬・無化学肥料という表現にはなるのですが、農薬へのアンチテーゼとしての無農薬ではなく、おいしさや楽しさ、心地よさからから今の生産方法や販売方法を選んでいるということをお伝えしたくて、「楽しむために生まれてきたこと」をコンセプトとして掲げています。

ハタケト:理屈ではなく、ポジティブな感情や気持ちが原動力なのですね。

亮さん:そうですね。だから、迷ったときには、わくわくするほう、楽しいと感じるほうを選んだらいいと思うんです。

由希子さん:うまく言語化できていない部分もあるのですが、自分たちが大事にしていることは不思議とお客さんにも伝わってると感じることもたくさんあります。理念をもって続けていたら、気持ちが通じ合うお客さんとのつながりも自然に形成されていくのかもしれませんね。

(百家農園の野菜で料理コンクールに出場するという調理科の高校生も常連のひとり。「この前おっきいの買ってたけん、今度は中くらいのとか小さいのがいいかもね」と由希子さん)

変わらざるを得ない出来事は、大きなチャンス

ハタケト:人参や玉ねぎ、大根の収穫体験や畑ヨガ、地域の飲食店や書店とのコラボイベントなど、毎月色んなイベントを開催されていて、百家さんの畑は色んな人たちにとって開かれた存在だなと感じます。

(人参の収穫体験にて。土に植わっている人参はしっかりと根を張っているので、少しずつ丁寧に掘り進めていきます)

亮さん:言葉だけでの説明や表現に限界を感じることもあって、体験の場を増やしているんです。体験すると分かち合えるものが増えて、同じ言語をもてる。言葉以外で伝わるものがあると日々実感しています。

由希子さん:わたしたちから伝えられるのは食べ方までですね。その前後にある、手触りやおいしさ、喜びは、食べたり、畑に足を運んで体験したからこそわかるものだと思います。

(「ちいさな直売所」に並ぶ野菜たち。ひとつひとつに、おすすめの食べ方が添えられている。食べるときのイメージが沸くように、野菜によっては断面も一緒に並べるそう。)

由希子さん:特に都会で暮らしている人たちは、こういったリアルな体験を求めているように感じます。ここでの収穫体験などのイベントも、街中から親子で参加してくれる方も多いんですよ。自然や人とのつながりとか、畑から食卓につながるプロセス体験といったことを大切にしたい人も増えているんでしょうね。

「食べる」ことは全人類共通の行為で、みんなにとって身近なものですから、子どもみたいに素直にハートで感じることも大切にしたいです。わたしたち大人はついつい何でも言葉で説明しようとしてしまいがちなので。

ハタケト:今後の展望を教えてください。

由希子さん:わたしも夫も、計画を練るよりまず先に行動してみるタイプなので、これからの計画については特に決めてないんです。これまでも自分たちが計画して変化していくことよりも、外的な要因で変化する機会がやってくることが多いですね。

亮さん:例えばぼくたち農家にとって、天候ひとつとっても自分たちから変わらざるを得ない事です。変わらざるを得ないって一見ネガティブなことのようですが、大きなチャンスでもあると思っています。そういう時はいつも、ふたりでとことん話し合って次の方針を決める。そして一度決めたら、気長に粘り強く続けます。細く長く続ける商売の大切さは、ことわざでも「商いは牛の涎(よだれ)」と言いますよね。儲けようとか目立とうとかではなく、ふたりで決めたことに向かって目の前のことをコツコツ続けていたら、後から自ずと結果がついてくるはずです。これが、ぼくたちの働き方であり、生き方です。

(インタビューはここまで)

朗らかだけど、揺るがない軸がある亮さんと由希子さん。このどっしりとした軸は、決断するたびに重ねてきた対話で形作られているのだと感じました。後日、人参の収穫体験に参加したのですが、ポジティブな感情が原動力のおふたりの周りには、笑顔あふれる空間が広がっていました。

取材の日は、冬野菜たちが小さな直売所に所狭しと並んでいて、ビーツ、カリフラワー、芽キャベツ、黒大根、カーボロネロなど、たくさんのお野菜を買って帰りました。おすすめの食べ方を参考に、ひとつひとつ調理して食べる時間はとても愛おしく、おいしく、幸せな気持ちに溢れていました。春のイベントも楽しみです。

(撮影:松木 太)

今月のテーマは「ハタケとパートナーシップ」。パートナーと話してみたことや上手くいく秘訣などがある方はぜひハッシュタグ #ハタケト を付けて、ツイッターまたはインスタグラムにお寄せください。また、ハタケトへの感想やリクエストなどもお待ちしてます。