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「農家になることだけが、食と農に関わる働きかたではない」と話してくれたのは、動画を投稿しているTikTokでフォロワー数4.3万人(2021年10月14日現在)という川満 俊(かわみつ しゅん)さんです。動画制作スキルを活かすところから、元々興味のあった食と農の分野に関わる働きかたを始め、現在、徐々に農家さんのお困りごとに応えるディレクターという働きかたへシフトしているところだそう。自分の好きなことや得意なことを活かし、俊さんらしい独自のやり方で、食と農に関わる働きかたを実践しつつある様子をお伺いしました。

独自にたどり着いた、食と農に関わる働きかたとは

ハタケト:早速ですが、俊さんのお仕事内容を教えてください。

俊さん:フリーランスで、主に動画制作をしています。食と農の分野に関して言うと、農家さんの「自分たちの商品やサービスを届けたい人に伝えたい、広めたい」という想いをサポートできるような動画を作っています。動画をきっかけに、それ以外の制作依頼を受けることもありますね。例えば最近は、会社案内のパンフレットを作成しました。また元々料理が好きだったこともあり、コロナ禍前は出張料理人としてイベントに呼んでもらうことも多かったです。

ただ、今はまだ食と農に関わる仕事だけをしているわけではなく、他の業界での動画制作もしています。農業関連の動画制作は全体の3割ほど。コンテンツとしては、真面目なだけよりも面白いものを創りたいという想いが強く、そこがぼくらしさになっていると思います。

まだこれからではあるのですが、自分がやっていきたいことを職業で言うなら「農家専門のフリーランスディレクター」でしょうか。ぼくが考えるディレクターとは、「現場からさまざまなお困りごとを拾い上げ、得意な人と協力しながら、最適な方法で解決していける人」です。現場の想いを形にすることで、結果的に生産現場と生活者を繋げるような仕事が理想ですね。

仕事で農家さんと関わりたいという想いは前職時代からずっともっていたので、興味のある農家さんには自分からInstagramやTwitterのDMで連絡をしていました。その中でぼくのSNSを見た農家さんから「動画を制作してほしい」という依頼をいただいたことをきっかけに、少しずつ農業分野の動画制作も増えてきています

(パソコンがあればどこでも仕事ができることも強み)

ハタケト:だんだんとお仕事の幅を広げていかれているのですね。お仕事や働きかたに関するこれからの構想はありますか。

俊さん:ディレクターとしての幅を広げていきたいですね。今はお困りごとの解決方法が「動画」になることが多いですが、それはあくまでひとつの手段だと思っているので、最適な方法を見つけて、得意な人たちと一緒に解決できるようになりたいです。人とコミュニケーションを取ることも好きなので、自分ひとりで全て解決するよりも、多くの人と協働する方が良いアウトプットが出せると感じています。いろんな方々と深い関わりを持つことで、得意な人に得意なことをお願いして、社会に対して出来ることを増やしていきたいです。

(撮影した日は、イベントで出張料理人をしているところにお邪魔しました)

 前職時代に見つけた、ハタケのそばで感じる食の喜び

ハタケト:食や農に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

俊さん:20歳まではプロのサッカー選手を目指していました。大学も強豪のサッカー部に入部して、実際にプロになった先輩や同期も複数人いるのですが、レベルの高い人たちが本気で努力しているのを見た時に、「あ、ぼくはこのフィールドで戦っていけないな」と心がポキっと折れたんです。ちょうど就職活動をするタイミングだったのですが、そんなにすぐ将来のことを決める気になれず、船乗りだった父親から「一番良い国だった」と聞いていたメキシコに行ってみました。

1年ほど過ごしたのですが、中南米の方って陽気な方が多いですよね。特に、食事やお酒の場は雰囲気も含めて楽しくて大好きで、帰国後も食に関わりたいなと思うきっかけになりました。

(料理の際に心がけているポイントは、その土地の食材を調達してシンプルに仕上げることだそう)

俊さん:その想いを胸に、帰国後はワインを扱う商社に就職しました。食への関心が強い人も多く、おすすめのレストランやワイン情報を聞いては月1程度、勉強を兼ねて食べに行っていました。そこから、自分でもおいしいものを作れるようになりたいと思い、自宅でのおもてなしを始めたんです。仕事で知り合ったシェフの方々に料理のアドバイスをいただくことも多くありました。

ハタケト:独立してからも食と農に関わり続けたいという想いは、どこからきているのでしょうか。

俊さん:前職でイタリアのぶどう畑にいった時に、知識でしか知らなかった畑の情報が初めて実感を伴うリアルなものになる経験をしました。ぶどう畑で、その畑から採れたぶどうで作られたワインを飲んだ時に、「その土地のものをその土地で食べられるのが最高に幸せだな」としみじみと感じたんです。しかもそれが仕事にできたらさらに幸せだな、と。今よりもっと直接的かつ頻度も高く、生産する人やその先にいる食べたり飲んだりしてくれる人に関わりたいと思い、独立を決めました。 

(出張料理人としての活動は、会社員の頃から定期的に引き受けていた)

メキシコ人の、「幸せに生きるための価値観」を取り入れて

 ハタケト:メキシコに1年間滞在したと仰っていたのですが、メキシコでの体験は、俊さんの今の価値観に影響していますか。

俊さん:すごく影響していますね。現地の人たちは、楽しく幸せそうに見えました。「困っても何とかなる」「何歳からでもやりたいことに向かっていけば良い」という価値観をもっているからだと学びましたし、そうしたメキシコ文化の価値観こそ独立を後押ししてくれました

具体的な話でいうと、印象的だったことが2つあるんです。1つは、メキシコ人は貯金をしない人が多いこと。誰かと食事をしていても、今日はお金があるから食事代を出す、明日はないかもしれないからその時はごちそうしてね、とお互いに手を差し伸べたり助けを求めるスタンスがあるため、貯金をすることの優先順位が低いように感じました。2つめは、周りの人を肯定する文化があり、何歳からでも新しい道を進むことや、やり直すことに躊躇しないこと。実際にぼくの知り合いでも、35歳でポケモン好きの男性がいまして、日本語の先生になるために大学に入り直しているとのことでした。

こういった気楽なラテンのノリが大好きですね。大学時代にメキシコが大好きになったこともあり、前職を辞めた2日後には2回目のメキシコ渡航をしました。メキシコは日本より物価が安いので1年は暮らしていけそうな貯蓄もあり、1年ぐらいがんばれば何か仕事になることが見つかるだろう、そんな気軽な想いからです。

俊さん:結果的に、2回目のメキシコ滞在が本格的に動画の撮影や編集を始めるきっかけとなりました。YouTubeを見るのが好きで、以前から自分でも投稿したいと思っていたんです。時間ができたこともあり、編集も手を動かしながら勉強して、3か月で50本アップしました。その時にTikTokも併せて始めたんです。TikTokではメキシコの食材で日本料理を作る動画を制作し、興味をもってくれる人が徐々に増えていきました。

この時にこだわっていたのは、日本料理を作るための素材自体から自分で用意することですね。前職時代に感じた「その土地で採れたものを、その土地で食べるのが幸せ」という想いや「根源的に食を捉えたい」という想いがあったからです。出来る限り、食べ物ひとつひとつの始まりから知り、味わいたい、というぼくの好奇心でもあります。ゆくゆくは食材もタネから自分で生産したいと思いながら料理をしていました。

こうした経験は、「生産現場の近くで仕事をしたい」という想いをより強くすることに繋がったと思います。現場にいることで食べ物の始まりから食を捉えられる喜びや、おいしいものにたくさん出会える幸せを感じられるからです。しかしちょうどコロナウイルスが蔓延し始めたこともあり、2回目の渡航は3か月ほどで日本に帰国することになりました。

俯瞰できた自分の「強み」を活かすとき

ハタケト:予定よりも早めて日本に帰国してから、どのような経緯で今の働きかたになったのですか。

俊さん:3か月ぐらい実家で考えていた時に、「やっぱり生産の現場で仕事がしたい」と思ったんです。ちょうど大阪の米農家の知り合いがいたので、そこに住ませてもらえないかとお願いし、そこから色んな農家さんに会いにいくことを1年くらい繰り返していました。そんなご縁から少しずつ、農家さんのお仕事をさせてもらうようになったんです。

(ハタケのすぐそばで暮らすのが喜び)

ハタケト:農家さんに住みこむ提案をしたり、自ら色んな農家さんに会いに行ったり、行動力がすごいですね。ご自身の強みや特徴はどのように認識されていますか。

俊さん:昔から友達と仲良くなることは、得意でした。大学生の時にビビりながらもメキシコに住んでなんとかなった経験もあり、行動力がある方だと思います。また、小さい頃から器用貧乏なところがあるんです。いろんなことが60点ぐらい取れるところまでは簡単にできるのですが、すぐに飽きてしまうんです。1つのことに突出したり同じことを続けるのは難しいけれども、人とコミュニケーションを取る中で、状況にあわせて柔軟に対応できたり、とりあえず興味をもったことは何でもやってみたりして、それが仕事に繋がることもあります。動画も、作るのは好きなのですが1日中PC作業をするのは苦手なので、メリハリをつけて外出などもしてますね。

 ハタケト:今の働きかたや暮らしかたのおもしろさは何ですか。

 俊さん:自己責任の中で働くバランスを自分で決められることですね。やりたいことをやりたい時にやっている実感が強いので、モチベーションが下がらないですし、会社員に戻りたくなったりすることもありません。生産現場に近いので農家さんとは直接やりとりができるため、フォロワーさんなど生活者の方に対しても、自分が良いと思うものを直接的に伝えられるのが気持ち良いですね。

(農家さんのもとへ足を運ぶ時間は楽しみのひとつ)

パートナーの幸せも大切にできる暮らしを模索しながら

ハタケト:1年ぐらい色んな農家さんを回ったとのことですが、現在のお住まいはどうされているのですか。

俊さん:パートナーと一緒に、千葉の房総半島エリアに住んでいます。農家さんのお悩み解決には、単発ではなく長くお付きあいをしたいと考えた時に、拠点を持って腰を据えて関わった方が良いと思いました。房総半島には以前から憧れがあり、農業も盛んで魚もおいしいことからこの場所に決めたんです。しかし、パートナーが「薬局が近くになくて不便、虫が多い」という理由で、今のような田舎暮らしは難しいことが分かりました。仕方がないこととはいえ、やっと腰を据えられると思っていたので当初はかなり落ち込みました。

話し合いを重ねた結果、引っ越し資金を貯めてから、パートナーの出身地でもある神戸に引っ越しすることを考えています。調べてみると神戸は海も山も近く、自然が豊か。農地も多い神戸でもイメージしていた暮らしが出来そうだと気づき、パートナーが居心地良く感じる場所で、お互いやりたいことを探していくのが良いのでは、という考えに至りました。農業を学べるスクールもいくつかあるので、兼業農家として就農することも視野に2022年からの受講を考えています。ぼくは環境適応能力が高い方なので、新しい環境でも気持ちを切り替えて、心地いい生き方を作っていけると思います。

近い将来は神戸を拠点に、農家さんたちとも長いお付き合いをしながら、ぼくが目指す「現場からさまざまなお困りごとを拾い上げ、得意な人と協力しながら、最適な方法で解決していけるディレクター」の形を作っていきます。

(インタビューはここまで)

最近、「自分の得意や好きを活かした働き方をしよう」という言葉をよく聞くようになり、わたしも「いつか」そんな働き方を実現できたらいいなと思っていた時に出会った、俊さん。いきなり大きな一歩でなくとも自分が出来ることから軽やかに行動を始めてみることや、やりたいことを持ちつつも環境の変化に応じて自分もしなやかに変化させていく柔軟性。そんなスタンスの大切さを俊さんから学ばせてもらいました。食と農に関わる働きかたの選択肢はきっとわたしが想像しているよりも多く、自分が既に持っている個性や強みにもっと目を向ければ、今の自分を活かした仕事を生み出していける可能性を存分に感じる機会になりました。

(撮影:しもだなおと)