このマガジンは、様々な形で暮らしに「ハタケ」を取り入れている人やその暮らしの紹介を通じて、自然と自分、双方を愛せる生き方を提案するライフスタイルメディアです。

今回お話をお伺いするのは、福岡県うきは市で専業農家として「しゅうたの畑」を営む青木 秀太(あおき しゅうた)さん。祖父の代から引き継いだ梨を中心に、季節の野菜と果物を育てながら、畑でヨガをするイベントやYouTube、SNSでの発信にも力を入れています。

農家の長男として生まれ、畑が日常にある中で育った秀太さんですが、もともと農家になるつもりは全くありませんでした。プロのキックボクサーになり、引退後は福祉の仕事に就職。しかし畑に心を救われた経験を経て、秀太さんは農家になると決意します。「畑から心の癒しを届けたい」と言う秀太さんに、畑のもつ力を教えてもらいました。

自分を追い込みすぎて心を壊した会社員時代から、農家になるまで

(取材時に旬の盛りだった茄子。ひょろりと長いものや、ぽってりと丸いもの、ひょうたん型、紫や白、緑、模様入りと、形や色の種類が豊富なのが「茄子のおもしろいところ」と秀太さん)

ハタケト:「しゅうたの畑」を始めたのは、いつからですか。

秀太さん:2020年からです。農園を始める前は、医療法人に18年間勤めて福祉の仕事をしていました。最後の3年間は介護施設の施設長として、運営やスタッフのマネジメントを行っていたのですが、なかなかうまくできなくて次第に自分を責めるようになっていました。自分を追い込みすぎて、仕事から帰ったら押し入れに閉じこもっていた時期もありましたね。夜も眠れなかったし、笑うこともなくなって、病院にこそ行かなかったものの、うつの状態だったと思っています。

その頃、母が体調を崩して入院したんです。それをきっかけに父が農業に対して否定的になりました。「農家はやっていけん、梨の木も全部切ってしまおう」なんて言い出したんです。この父の言葉を聞いたら、「じじの野菜おいしい」と喜んで食べている子どもたちが寂しがるだろうな、と思って仕事が休みの日に農業を手伝うようになりました。

(色と模様が愛らしいゼブラナス。「ころんとした形がかわいいっちゃんね」)

ハタケト:仕事でしんどかった時期に畑の手伝いもだなんて、きっと相当大変だったのではないかと思います。

秀太さん:それが、畑で心癒される瞬間にたくさん出会って、塞ぎ込んでいた心がどんどん回復していったんです。タネを蒔いたり、苗を植えたり、梨の木を剪定したり。何か特別な作業をしたわけではありませんが、でも蒔いたタネからちょこんと芽が出て大きく育っていく姿を見ていると、「この子たちもがんばっているんだな」と元気をもらえるんです。梨など果樹の剪定は2〜3年先を見据えて作業するので、長い目で物事を捉えられるようになり、目の前のことで塞ぎ込んでいたところから未来に意識が向くようになりました。

心が回復してくると、挑戦する意欲が湧いてきて、仕事も前向きに取り組めるようになり、そのうち休日のたびに畑に出るほど農業が楽しくなっていました。畑に触れる時間を重ねていくうちに、「福祉の仕事もやりがいはあるけれど、目の前にある畑を使って、新しいことにチャレンジしてみたい」という気持ちが出てきたんです。そこで思い切って、祖父の代から続く農園を「しゅうたの畑」として引き継ぐことにしました。

身近にあった畑が、自分らしく働くフィールドに

ハタケト:以前は農家になるつもりが全くなかったのはどうしてですか。

秀太さん:子どものときは、農家なんて大嫌いだ!と思っていました両親が農園を営んでいた頃は、梨農家としてこの地域でも指折りの生産量だったので、一年中いつも忙しそうにしていました。しかも学校の夏休みが繁忙期のピークと重なるんです。休みなのに手伝わないといけないし、旅行に出かけることもできなかった。父から継いでほしいと言われることもなかったので、農家になるなんて思ってもいませんでした。

(畑のお話をしているときの秀太さんは、目がキラキラ輝いていて、今を目一杯楽しみながら生きていらっしゃることが伝わってきます)

ハタケト:今、農家になってみてどう感じていますか。

秀太さん:農業がライフスタイルの一部になっていて、働いているという感覚はありません。「働いている」というよりも「動いている」感じです。例えば今は繁忙期でもあるので、仕事は朝3時半から21時ぐらいまで。合間にSNSの更新やYouTube用の動画撮影と編集もしています。時間だけ聞くと驚くかもしれませんが、全く苦にならないんです。経営も広報も、全部自分で意思決定ができることに魅力を感じていて、夢を追っていたプロボクサーだった頃のような自分らしく輝いている感覚もあります。会社員として働いていたときは、自分で何かやりたいと思いながらも目の前の仕事に向き合うのに精一杯だったので、今自分らしく働けていることや、周囲の環境にありがたさを感じています。

休日も特に決めてはいないのですが、子どもたちと出かける時間も大事にしたいので、午前中で仕事を終わりにして、午後から家族みんなで食事や温泉に行く日もあります。最近はサウナにハマっていて、ときどきサウナにも行く時間を作るようにもなりました。農から完全に離れている時間は、家族で出かけている時とサウナの中ぐらいかもしれませんね。

畑が出会いとチャンスを与えてくれる

(取材日は朝から土砂降り。一日中雨の予報でしたが、終盤頃には雨が止み太陽が出てきました。秀太さん曰く、晴れ男なんだとか)

ハタケト:畑でのヨガやYoutubeでの発信など、農業そのもの以外にどんどん挑戦されていますが、その理由や原動力を教えてください。

秀太さん:ぼくの挑戦は全て、出会いから生まれています。例えば、ヨガに心を救われて、自分もヨガで周りの人たちを明るくしたいと思っているインストラクターの方と出会ったことがきっかけで、畑でヨガを始めることにしました。人と出会って話しているうちにアイディアが生まれてくることってありますよね。そのアイディアを実行に移すことが、新たな挑戦につながるんだと思います。

最近はライブコマースというライブ配信で商品を販売するサービスも使い始めました。これも、ライブ配信をしているライバーさんが畑に来てくれたことがきっかけでしたね。ヨガの先生も、ライバーさんも、ハタケトも、畑があったから出会えたんだと考えると、畑がチャンスを与えてくれていると感じます。畑という環境を思い切り使って、発信したり活動したりすることが、チャンスや出会いにつながっているんです。ぼくは、こういった出会いこそが財産だと思っているので、仮に経営面では効率が悪くても、色んなことに取り組みながら農園を続けていきたいと思っています。

(「水分が多くて、甘みもしっかりあって、スッキリ食べれるっちゃんね」と秀太さんが目を細めるのは、梨としては遅めの9月中頃が旬の「あきづき」。梨好きの人に大人気の品種なのだそう。)

秀太さん:例えば梨の場合、ぼくが育てた梨を食べるときには、ぼくの思いや顔が浮かぶような届け方をしたいんです。ライブコマースもYouTubeもSNSも、そうした気持ちにフィットしているのでやりがいを感じて続けられています。梨をたくさん生産して常に忙しそうだった両親の姿を見て育ったこともあって、ひとつの作物を大量に生産することよりも、色んな種類の作物を、ひとつひとつ時間と思いを込めて育てて、思いをまるごと食べていただけることも大事にしています。

畑を自分のものから、みんなのものへ

(2ヶ月ほど前から飼い始めた鶏たち。「卵から育てたけん、愛らしいとよ」と秀太さん。鶏たちも人懐こくて、子どもたちも怖がらないのだそう)

ハタケト:ご自身が子どものときは農業にマイナスイメージをもっていたとのことでしたが、お子さんたちには畑にどう触れてほしいと思っていますか。

秀太さん:自然あふれるこの場所で、たくさん遊んで楽しんでほしいと思っています。我が家には、「一日の中で、外で遊ぶ時間を必ずとる」という決まりがあって、子どもたちの友だちが家に来たときも外で遊んでもらうようにしてるんです。晴れの日には梨の木の下で走り回ったり、雨が降ったら納屋で遊んだりしていますね。

うちの子どもたちだけでなく、「しゅうたの畑」はフリー農園として普段から農園を開放しています。レジャーシートを敷いてご飯を食べている人がいたり、学校に通うのが難しいお子さんが親御さんと一緒に遊びに来たり、学校帰りの子どもたちが鶏とふれあいに来たり、来てくれた人たちが畑で思い思いに過ごしているのを見ると、嬉しくなりますね。

ハタケト:畑で知らない方がレジャーシート敷いてごはん!そんな風景が生まれているなんて驚きです。

秀太さん:物理的にも、また、心の拠りどころという意味でも、畑がみんなのものになってほしいと思ってるんです。日々の暮らしや仕事に疲れて、ほっとしたいときってありますよね。そんなときに「しゅうたの畑」で土に触れたり、ぼくが育てた作物を食べたりすることで心癒される体験を届けたいですね。

ぼく自身が経験したように、心が癒されて元気になってくると何か新しいことにチャレンジしてみようという気持ちが芽生えるので、「しゅうたの畑」で心癒された人たちの挑戦の後押しまでできたら最高だと考えています。これがいま一番やりたいことですね。ぼくだけじゃなくて、みんなにとっても、畑がチャンスを与えてくれる存在になってほしい。こうしたことが、今のぼくにとっての生きる意味であり、やりがいなんだと実感しています。

経営についても、ただ値段をつけて販売するだけでなく、お客さんに野菜や果物を自分で収穫してもらって、食べものを手にした時の気持ちから寄付をいただくようなことにもいずれ挑戦してみたいですね。お金のことだけを考えていても、ぼくの場合は楽しく続けることができないですし、楽しさだけに偏っても生活の両立が難しくなると思うので、経営のことも考えながら、やりがいの部分も大事にする。うまくバランスを取りながら模索していきたいです。

いのちをつなぐ感動と共に

ハタケト:未来のことを描きながら農業をされてるんですね。

秀太さん:「しゅうたの畑」としてはまだ1年ほどですが、祖父が開墾したこの畑は今年で75年目を迎えます。亡くなった祖父が50年以上前に植えた梨の木が今でも実をつけるんですよ。その梨の木を見ると、じいちゃんがうちの畑で生きてるなって感じます。祖父が植えた木がお金を稼がせてくれて、今を生きていくことにもつながっているので、いわば祖父がぼくたちを生きさせてくれているんですよね。

最近読んだ本に、「もしあと24時間で死ぬとしたら何をする?」という問いがあったので自分なりに考えてみました。食べる、家族と過ごす、などパッと浮かんだ欲求を数えていったら最後に1時間だけ残ったんです。その1時間をどう使うかな?と考えたとき、きっと畑にタネを植えると思いました。

祖父のように、いずれぼく自身がいなくなっても続いていくような、いのちあるものを育み、次世代への資産を残していきたいと思っています。

(インタビューはここまで)

ハタケへの愛あふれる秀太さんのゆたかな心の土壌に、出会いのタネが落ちることでぐんぐん育っていき、新たな挑戦につながっていく。秀太さんは、植物のいのちだけでなく、周りの人たちの「やってみよう」という想いのタネも育み、未来につないでいきたいと思っていらっしゃるのだと感じました。お話を伺いながら、これからどんな挑戦をされるのか、わくわくした気持ちになりました。

日々の暮らしや仕事に心が疲れたときには、「しゅうたの畑」ですくすくと育まれているいのちたちに元気をもらいに行きたいと思います。