このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

今回お話を伺う、雲谷(もや)ト森山農園の森山知也(もりやま ともや)は自分でタネをとる「自家採種」に励んでいます。通常、野菜のタネは種苗会社が作ったものを購入するのが一般的となっています。タネを採るには、他の植物と隔離したり、半年以上の時間をかけたり、選定したりなど、多くの手間が必要となるからです。

そんな手間をかけてまで自家採種を続ける森山さん。何がそこまで森山さんを突き動かすのでしょうか。

青森の少し奥地で、タネから自家栽培を目指す自然派農園

(青森市街から20分程度。未舗装の山道に入ると、さながらリアル・ジャングルクルーズ。本当に着くのだろうか…?)
(不安になった矢先、パッと視界が開ける。左右を木々に囲まれ、中央には澄みきった水が流れる、まるで異空間の農園にたどり着いた!)

ハタケト:素敵な場所ですね…!

森山さん:来るのが大変だったでしょう(笑)。アクセスは悪いけど、自分にとっては最高の条件だと思っています。川は横内川と言って、八甲田山の雪解け水が流れています。すぐ近くの浄水場は、水質日本一に選ばれたこともあるくらい綺麗なんですよ。

ぼくは作物を育てるには水と草が重要だと思っています。今は貝殻や米ぬかといった肥料分を入れていますが、なるべく余分なものは入れないよう心がけています。

前に、ネイチャーガイドをしていたことがあるのですが、「地球こそ神だ。」と思ったことがあるんですよ。完璧な仕組みができている。下手な人間がどうこうするより土壌の微生物に任せる方がバランスがよくなると考えています。

ハタケト:自然本来の力を活かす栽培をされているんですね。現在はどんな経営をされているのですか。

森山さん:農園メンバーは妻とスタッフの3人です。それとボランティアで援農に来てくれる方にも支えられています。草生栽培と言っても、放任するわけじゃなく管理は必要なんです。逆にこの栽培は通常の方法よりも手間がかかります。その上、ぼくの農園ではタネの自家採種も行なっているのでやることがつきません(笑)。

販売には、ECサービスのポケットマルシェ を主に利用しています。生産者と消費者をつなげる活動をするポケマルは、自分の意思や作物の魅力が伝わりやすいのでありがたいですね。地元の産直でも販売していますが、冬以外の農産物が潤沢な青森は10円20円の差でも手に取ってもらうのが難しくなります。けれど、それが食卓が笑顔になったり、未来に良い環境が残せるかもしれない価格差なんです。価格の壁をどう超えるかが地元でのテーマだと思っています。

(森山さんが育てる、個性豊かな農産物の数々。)

人間の「生き抜く強さ」を取り戻したい

ハタケト:森山さんは新規就農者ですね。農家になったきっかけについて教えてください。

森山さん:ぼくの生まれは青森ですが、父方の親族が田んぼや畑をやっていて、幼少期に少し土に触れた程度です。社会人になってからは上京し、ほぼ都心で働いていました。それなりに稼げていて、結構好き勝手にやっていました。けれどそこで東日本大震災にあって、電気がなくては何もできない今の暮らしに衝撃を受けたんです。東京で不自由ないと思っていたけど、電気や燃料が無ければ自分は何もできない人間の弱さを突きつけられた感覚でした。

(当時のことを思い出しながら語ってくれる森山さん。)

森山さん:それで「このまま今の暮らしを続けたくない」と思い仕事を辞めたんです。次のあてもなかったので、まずは小笠原諸島の父島に旅行したんですが、台風で帰れなくなったんです。そうしたら宿泊先で経営者と語らう機会に恵まれ、ネイチャーガイドなどを手伝うことになりました。

父島は本当に自然豊かで、海に飛び込むとイルカと一緒に泳げる楽園でした。島民の生活は、全てを金銭で解決できうる都心部と比べると不便です。しかしその分、人間として「強い」と感じました。個々に解決できる力をもち、さらに協力の精神で力を集めることで「生き抜く力」を格段に高めている。そんな世界を目の当たりにしました。電気や化石燃料に加え、食事も活動するためのエネルギーです。だからこそ、せめて食事は他人任せをやめて「自分が食べれるものくらい自分でつくれるようになろう」と農家になることを決意しました。

ハタケト:「生き抜く力」の強さ、弱さという価値軸で生き方を再編成されていったんですね。

研修先の師匠とケンカ!?

友好の架け橋となった「タネとり」

(自家採種した枝豆のタネ。)

森山さん:とはいえ、父島は土地が小さく、就農したいと思っても農地が見つけられない状況でした。さっそく行き詰まったとき「故郷の青森は絶対土地があまってるよな〜」と頭をよぎり、水が美味しい青森がやっと魅力に思えたんです。

それでUターンし、就農のため1年ちょっとほど先進農家のもとで農業研修を受けました。研修先は、主に有機肥料を使い、一部の作物に農薬や除草剤を使っていましたが、ぼくは「自然農や自然栽培(農薬・肥料を使わない農法)にならおう」と決めていました。それであるとき「肥料は使いたくないんですよね。」と言ったら、それはそれは怒られました。ベテラン農家の研修先からすれば、これまでの栽培を否定された気持ちになったのかもしれません。そこから研修先ではギスギスした関係となってしまいました。

ハタケト:相手を否定するつもりはなくても、考え方の違いで大きな溝が生まれてしまったのですね。

森山さん:「農業や農法の考え方」が違いでケンカが起きたとしても、お互い簡単に元を変えられるわけではありません。しかし、あるとき「自家採種したタネの交換会」に参加して大きな可能性を感じました。経験者なら誰もが知っているタネ採りの大変さと奥深さ。自家採種したタネを基盤に置くと、世代が違っても農法が違っても、お互いに歩みよれる共通認識が生まれます。

農業人口は減り続けています。農業が大変だからだと思います。その上にタネ採りまでしたら、本当に大変です。買った方が楽ですね。果菜類の採種は比較的楽ですが、青森での根菜類は、収穫したら春まで貯蔵し、埋め直す必要があります。そこから花が咲き結実し、小さなタネを採るために、あの手この手で調整します。場合によっては1年近く畑を占有します。だからこそ種苗会社は頼りになりますが、任せっきりにはしたくない。農業を通じて、お金で買える便利の向こう側に挑戦したかったので。

(タネ採り用のキュウリは、数倍の大きさになり黄色〜茶色に熟すまで置くそう。)
(取材当日はちょうどスタッフの須田さんがミニトマトのタネ採り作業の最中でした。)
(タネ採りされた、ミニトマトのタネ。)

ハタケト:共通認識になることの他にタネ採りをしてよかったことはありますか?

森山さん:最初は発芽率が悪いなど、いろんな問題にぶつかりました。雪国の遅い春で発芽のタイミングが遅れるのは致命的です。しかし、生命の尊さに出会えます作物の一生に触れ、次世代を知り、命のリレーを学びます。その気候風土に順応していく作物の「強さ」を感じることもできます

(農園になっていたパプリカ。)

森山さん:少し視点を広げてみると、私たち人間は1年分の食料を抱えて暮らすことはできないですよね。ただ、タネは1年分持つことができるんです。それってとても「強い」ことだなと思います。便利だからといって、1年分のタネを持てなくなる流れを作ってはいけない。そう思って今は忙しくても自家採種に励んでいます。

食は喜びの場だ!

(本当にいろんな固定種の野菜がある雲谷ト森山農園。この野菜はなんだ、、?)

ハタケト:本当に「生き抜く力の強さ」を追及されているのだなと感じます。生き抜く力を持って、何が変わりましたか?

森山さん:電気もガソリンを買ってまだ依存しています。そんな自分に腹立たしさを覚えることもあります。エネルギーの問題は、電力業界や自動車業界の人がなんとかしてくれるだろうと願いつつ、確かな選択のためにしっかり情報を集めたいと思うようになりました。

そして、そんな自分を許せるような、なりたい人間になるためできることをしていきたいです。

ハタケト:なりたい人間とは?

森山さん:自分の正義に向き合い続ける人間です。今、社会全体で言うと、何が正義かがすごく見えにくくなっていると思います。だからと言って社会を否定するのではなく、ぼくは「ぼくの正義は何か」をちゃんとしてればいいかなと思っています。ぼくの場合は、「自然の恵みをいただいているのに、地球に負荷をかけて返す生き方をしたくない」というのが、ぼくなりの正義です。

なるべく自然環境にいい農業をしていても、それでも負荷はかかっています。だからこそ、「どうしたら負荷を少なくしていけるんだろうか?」を考えていきたいです。

きっと、こういう考え方をする農家や理解者は増えていると思います。まだまだ多難ですが「これでもやっていける」ということを証明したいです。

ハタケト:森山さんの考えに共感した方が、自分も少しでも「生き抜く力」を取り戻したいと思った場合、何か始められることはあるでしょうか?

(教えて森山さん、、!)

森山さん:食は毎日のことだからこそ「忙しいからこれでいいや」と思ってしまうことも多いですよねただ、多感なこどもに粗末な食事を続けてしまうと、こどもも食事が楽しくなくなると思います。

食って本来は喜びの場なんです。それには、旬と鮮度を損なわない食材が大切です。流通する多くの野菜にこどもが喜ばないのはなぜでしょうか。溢れかえる加工食品で、便利だけど食の喜びから疎遠になっていないでしょうか。

もうこれは他力より自力、家庭菜園でしょう!プランターでも十分。きちんとタネから考える。タネから芽を出して食材となるまでを知る。芽がでて草や穀物となり、飼料となってお肉にもなる。食べものをタネからイメージできるようになる。そして家庭菜園でこそタネを採ってみる。大人にも最高の食育です。今は種苗会社がタネを作ってくれますが、その歴史ってこの100年200年の話なんです。それ以前は農耕文化が始まって以来何千年も、タネ採りのリレーがなされてきたんですね。そう考えてタネのリレーに参加するのはものすごい感動的でおすすめですよ。

(インタビューはここまで)

自分の正義を持ち、行動し続ける森山さん。その正義感はさることながら、それを他人に押し付けたり、社会を否定することなく、むしろ「タネ採り」という共通認識を見つけて折り合いをつけながら進まれている姿勢は、多様性社会の中で生きていくヒントまでもらえたような気持ちになりました。

下のリンクに雲谷(もや)ト森山農園さんのネットショップのリンクもありますのでぜひ、共感した方は食べて体験してみてください!

(左からインタビューを担当した有本と森山さん。)