このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

本日登場するのは、今年の8月からこの「ハタケト」を運営するTUMMY(タミー)株式会社の2人目のメンバーとしてジョインした有本千秋(ありもと ちあき)さん。彼女は2回目の転職でTUMMYへの入社を決めたということですが、これまでもずっと「畑」に関わる仕事を選び続けてきているのだそう。転勤族の妻でもある彼女が、畑に関わる仕事にこだわり続ける理由とはいったい何なのでしょうか。

「生物が好き」がきっかけで入った農大

ハタケト  有本さんは東京農業大学を卒業されていますよね。農業に興味を持ったきっかけと学んでいたことを教えてください。

有本  もともと「農業」に興味があったというより、子どものころから「生物」に強い興味があったんです。わたしは横浜市の生まれで、身近に畑はありませんでした。けれど、家のすぐ裏に森というか山があったんですね。意外に思うかもしれませんが横浜市は山と緑が多く、子どもの頃は秘密基地を作ったり、虫取りを思いっきり楽しんでいました。

 生物に強い興味があると自覚したのは高校生のときです。生き物自体もとても好きだったのですが、科目としての「生物」がとにかく大好きだったんです。人や動物がなぜ動くのか?を考えるのが好きでした。

 また当時環境ブームだったこともあり、たまたま「砂漠で農業をする」という本を読んだんです。ここから畑人生がはじまりましたね。(笑)この本を読んで「農業は経済活動と環境対策の両方ができるんだ!」と強い衝撃を受けたんです。そこから日に日に農業への関心が高まり、東京農業大学に進学することになりました。

ハタケト 大学ではどんなことを学んでいたのですか?

有本  わたしは大学の中でも農学部農学科というど真ん中の学科に進学しました。もともとは環境と農業に興味があったのですが、色々な分野を学んだ結果、研究室は「遺伝育種学」を選択しました。実験室で細胞を増やしたり遺伝子を抽出したりと、理系らしい研究室でしたね。

 ただ、就活が始まるときに「あれ、わたし農業の勉強はしてきたけど、農家さんがどうやって水をまくのかも知らないぞ」ということに気づいたんですね。大学の初代学長の格言で「農学栄えて農業滅びる」という言葉があるのですが、「これってわたしのことじゃん!」とショックを受けました。そこから自主的に学外の農業の講演会に行くようになり、そこで新卒で入社したタネ屋の上司に出会いました。そのあとはじめて「農業の現場」に行くようになったんです。

知的探求が止まらない!「畑」の面白さ

ハタケト 学外に学びの場を求めてはじめて畑に触れるようになったんですね。畑の現場にいってみてどうでしたか。

有本  もうとにかく面白いんです!学びの連続ですね。タネ屋は単に野菜の種を販売するだけでなく、技術的な面から農家さんをサポートするという役割があります。例えるなら「農業版の樹木医」のような立ち位置です。農業に関わる知識は植物生理、土壌科学、病理学など多岐に渡ります。特に「土」はまだ解明尽くされていないくらい、多様な微生物の働きが影響しています。本当に奥深く、その世界の学びにのめり込んでいきました。「もっと畑のことを知って、技術を学びたい!」という思いをもつようになり、その会社でインターン、そのまま就職することを決めました。

 自身が学んだことで、農家さんのお役に立てるのはとてもやりがいを感じていましたね。会社が所在する茨城県は、北海道に次ぐ日本第2位の農業生産県なんです。ベテランから若手の農家さんまで幅広く担当させてもらい、日々学問的な理論と現場の両方を学びながらお仕事をさせてもらっていました。特に一粒のタネから芽が出て、野菜のかたちに成長していく姿はいつ見ても感動を覚えました。

 ただ就職して4年目のある時、仕事を抱えすぎて体調を崩してしまったんです。なかなか復帰ができず、結局1年間の療養生活を送ることになりました。

ハタケト その後、転職をされていますよね。どのような軸でお仕事を探されたのですか。

有本  人数が少ないベンチャー企業で体調を崩してしまったというのもあったので、まずは社内の労務制度の整ったある程度規模の大きい会社を見るようにしました。

 また、自分だけでなく農業界の労働環境にも興味があったんです。同世代で就農した子が何人かいるのですが、メンタルダウンして離職する場面を何度も見ていました。畑の世界は本当に面白いし、食べ物を生み出す素敵な産業なのに、農業界の働き方・経営ってどうなっているの?という次なる関心が浮かんでいました。

 そこで日本全国の畑を見ながら経営を学べるような仕事を探したんです。ちょうど全国各地に自社農園を持つ、大手の小売企業が中途社員を募集しており、入社することになりました。

ハタケト 畑に魅力を感じていたからこそ、さらに役に立つべき領域を見つけたという感じだったのですね。

有本  今までは「技術」の一面だけで農業を捉えてきましたが、農家さんは生産者であり経営者でもあります。技術の他に、組織づくり、営業などの力も必要です。いかにいい技術を持っている方でも、組織づくりや販売面で苦戦している方にも会ってきました。

 2社目では農園の経営者をまさに経営面でサポートしていくポジションにつきました。目の前に悩んでいる人がいるからこそ、わたしも経営についてイチから勉強しながら、細かく数字を分析し、サポートしていきました。人の役に立ちながら、学びたかった経営について学べる環境はとてもありがたかったです。

転勤族の妻でも「好きな仕事」を続けたい。

ハタケト 2社目からTUMMYへはなぜ転職したのでしょうか。

有本  理由はふたつあります。ひとつは、べーちゃん(TUMMY代表 阿部)の「畑の魅力はすでにある」という言葉に強い共感を覚え、一緒に仕事がしたいと思ったこと。もうひとつは、夫の全国転勤に帯同しても、各地で農業に関わる仕事を続けたかったためです。

 べーちゃんとはGOBO(ごぼう)という社会人農業サークルで7年ほど前に知り合いました。サークルの活動を通じて、彼女の畑への愛は当時から感じていましたね。そして今年1月、べーちゃんがTUMMYを起業したと聞き、話す機会があったんです。その時「畑の魅力はすでにある。それを価値に変えて、伝わる形にするのが仕事」という言葉に本当に共感したんです。

 わたしは2社目で、野菜を店頭青果やサラダなどの加工原料に流通する業務も行っていました。農産物を大量に効率よく流通させ、販売することはコスト的にもメリットがありますし、社会的な食料インフラとしても重要なことです。そしてそれを数量やお金の数字で管理することも当たり前に必要です。けれどある日、自分が野菜を数字でしか捉えていないことに気づき、気持ち悪さを感じてしまったんです。「畑で一粒のタネから野菜になることを見てきたからこそ感動を覚えてたのに、これで良いんだっけ?」という疑問が湧いたんですね。その時にちょうどTUMMYの話を聞いて「自分も畑の魅力を価値に変える人になりたい!」と思ったんです。

 ふたつめの理由ですが、わたしの夫は全国転勤がある職に就いています。2社目在籍中に結婚したのですが、実は入籍直後から1年間、週末婚生活をしていました。わたしは東京で、夫は関東圏内だったので何とかやってこられました。実際には2週間に1回程度しか会えなく、寂しいときもありましたね。

 そして半年前、「次の赴任地が結構な田舎になりそうだ」と夫に相談されたんです。また2〜3年のペースで転勤があるので、とても前の会社で働きつづけることは現実的ではありませんでした。夫と一緒にいたいという気持ちと、わたしも働き続けたいという思いの狭間で葛藤していましたね。夫が転職して、私が東京で働き続けるという話も一つの案としてあったくらいです。

 実際、どこに行ってもキャリアを積んで働くために、WEBデザイナーやライターの講座にも通いました。職種を変えて新しい形を模索しようと思ったんです。しかしコースを卒業して思ったのは「これを仕事としてやりたいわけではない」「やはり大好きな畑と関わる仕事がしたい」という感情でした。改めて自分は、食べるためだけではなく「やりがい」を持って仕事をしたいんだと感じたんです。

 そんな悩みもべーちゃんに打ち明けたところ「TUMMYなら全国場所を問わず働けるし、むしろ行った先の地域で畑の魅力を掘り起こしてくれたら嬉しい!」と、とてもポジティブに受け入れてくれたんです。共感もタイミングも合って、本当に有り難かったですね。

目指すは地域の魅力を掘り起こす、「畑の魅力伝道師」。

ハタケト TUMMYが業務領域としているブランディングは、また今までとは違うスキルだと思うのですが、入社にあたり不安はありませんでしたか。

有本  「ブランディング」と言いますか、「伝え方」についてはまさに学びたいところでした。農家さんとお話していると、いいものを作っているのに魅力を対外的に伝えることが苦手という方は多いと感じていたんですまた、従業員さんとのコミュニケーションがうまくいかず離職率が高い農園さんも見てきました。またわたし自身、「農業の魅力を伝えきれなくて悔しい」という思いをしてきたこともあります。先程も言いましたが、私は野菜がタネから成長するさまには感動しますし、健康に育った農作物には美しさを感じます。

 そしてあらゆる天候条件の中で、それを作り出すことのできる農家さんには本当に尊敬すると同時に、何か力になれたらと考えています。今までも役に立ちたい人がいるから、学びながら成果を出す働き方をしてきて、それがわたしらしいと思うんです。また、自分が培ってきた技術面、経営面で農家さんと接する力をTUMMYでも活かしていくことはできると思っています。

 夫の転勤は来年春ごろの予定なので、それまでにまずはべーちゃんと仕事をしながら、ブランディングのスキルを身に付けます。そしてゆくゆくは、わたし自身が歩んできたキャリアを活かした自分らしい「畑の魅力伝道師」になることが次の目標です。「畑の魅力はすでにある」をモットーに、地域の魅力を掘り起こし伝える形に翻訳する、一人前の伝道師になれるよう学びを続けていきます。

(インタビューここまで)

畑の魅力に惹かれ、探究心からどんどんと必要な力を身に付けてきているという有本さん。そのスキルを活かし、地域に入り込んだ新しい働き方をこれからも模索していきます。ちなみに次の転職予定地は【南の方面】に決まったそうなので(詳しくは本人に聞いてね!)、ぜひ有本と一緒に働いてみたい!という方はぜひお声がけください。