このマガジンは、様々な形で暮らしに「ハタケ」を取り入れている人やその暮らしの紹介を通じて、自然と自分、双方を愛せる生き方を提案するライフスタイルメディアです。

今回お話をお伺いするのは、たなかあゆみさん。あゆみさんは、愛媛県松山市の中島(なかじま)という人口2500人に満たない小さな離島で、島のおいしさをオンラインで販売したり、自らもパン屋さんとして活躍しています。

最近ではイノシシ猟に同行し、野生のイノシシ肉と季節の山菜を料理してYouTubeで発信するなど、島暮らしのリアルな食も発信しているあゆみさんに、いのちと向き合う暮らしについてお聞きしました。

島で生きるあゆみさんの、本質的な暮らし方を紹介します。

遠い夢だと思っていた田舎暮らしを、人口2300人の小さな島で叶える。

ハタケト:中島に移住したのは8年前ということですが、元々どんなゆかりがあったのですか。

あゆみさん:それがゆかりは全くありませんでした。それまで長崎市に住んでいたのですが、たまたま聞いていた農業関連のラジオ番組で、中島での移住促進や地域活性の活動をしているNPOが就農希望の移住者を呼び込む活動をしていることを知ったんです。すぐに借りられそうな空き家と畑があるとわかり、一度下見をした後すぐに移住しちゃいました(笑)その前から、いつか農業をしたいとはずっと思ってたんですけど、新規就農ってすごく資金が必要なイメージがあって、実現できるとしてももっとずっと先のことだと思ってたんです。でもこの中島の求人ならそんなにお金がなくてもすぐ移住して農業ができると知って、思いきって飛び込みました。25歳くらいの時です。

ハタケトいつか農業をしたいという気持ちはいつ頃から、どんなきっかけで考えていたのでしょうか。

あゆみさん:小さい頃から、ものづくりをして暮らしたいという思いはあったのですが、それが食べるものをつくりたいという気持ちになったのは大学生の時です。ひとり暮らしを始めてから体調の悪い日が続き、とにかく元気が出なくて、頭が痛い。それまでなかった調子の悪さがずっと続きました。毎日自炊を楽しみながら食べているのに、どうして?という気持ちでした。その時に、ただ食べるだけではダメなのかもしれないという思いがわき、マクロビオティックや菜食に興味をもち、食の知識を夢中で身につけていきました。まだその時は食べ物を仕事にしようという気持ちはなかったのですが、知識を深めていくうちに、わたしがしたかったものづくりの究極は農業で、食べ物を作ることだ、と考えるようになりました。大学2年で学校をやめて、WWOOF(※)で色々な農家さんを訪れたり、有機農家さんに定期的にお手伝いに通ったりもしました。

(※WWOOF:ウーフ。イギリス発のNGOで、農作業体験を軸にした交流を目的にしている世界的取り組み。ホストは食事と寝る場所を提供し、参加者は労働力を提供する)

得意な人が得意なことをして島の生活をまわす。

あゆみさん中島に移住を決めたのは、農業をしながらカフェを営業するとか、食べ物を作りながら何か別の仕事をしたいと考えていたからです。当時の中島は、カフェも何もなかったから、農業をしながらやってみたいことが全部できるんじゃないかな、と思って。

ハタケト:「何もないからいろんなことができる」と思えるのがすごく素敵です。今は農業の他にどんな仕事をしているのですか。

あゆみさん移住するきっかけとなった「NPO法人農音」で販売事業部を担当し、中島の食を伝えるオンラインストア「くつな商店」を運営しています。オンラインストアでは島外のお客様に向けて、島の柑橘が販売のメインです。自社で生産した柑橘もあるのですが、たとえば高齢の生産者さんたちが売り先を見つけられない場合なども買い取らせていただいて販売しています。もしも売り先がないから、と彼らが栽培をやめてしまったら島の経済も回らなくなってしまいますからね。柑橘のシーズンはだいたい10月から翌年5月くらいまでなので、その期間で1年分の生活収入を確保しています。

あゆみさん:あとNPOの仕事とは別に、パンの受注製造をしています。島にはパン屋さんがないので「パンが作れるなら売って欲しい」と言ってもらったことをきっかけに、月2回くらい販売してるんです。といっても、近所で鶏を育ててる方には卵と交換してもらったり、お野菜いっぱい育ててる方には、余ったお野菜くださいね、とパンを渡したり。

ハタケト:必ずしもお金が介在するわけではない?

あゆみさん:今この島には移住者が40〜50人くらいいて、島で暮らしているみんながそれぞれ得意なことで助け合っています。大工仕事が得意な人は家の修繕とか、音楽が得意な人はピアノやトランペットを教えるとか。別に「困っている人を助けなきゃ」という感覚でもないんですよ。もちろん、誰かのヘルプが聞こえたら助けてあげる心の準備は常にしておきたいですが、何か「してあげよう」じゃなくて、自分の得意なことを誰かの役に立てよう、という気持ちでそれぞれが自発的に動いている感じです。お金はわかりやすいので、対価としてお金をいただくことに抵抗はありませんが、物々交換が多いのはいい文化だなぁと感じています。

現場に入ったから理解できた「必ずいのちは奪われる」という事実

ハタケト:最近のあゆみさんの発信をみていると、食の在り方への危機感をもっているように感じるのですが、今わたしたちの食に関してどういったことを問題視していますか。

あゆみさん家畜の肉を食べることが環境や途上国の飢餓問題、食糧分配問題にどう影響するのか、ということを最近はよく考えています。中島では畑の作物を荒らす獣害が頻繁に起こるため、年間で700頭くらいのイノシシが捕獲されて、そのほとんどは島外で焼却処分になっているので、もしも、お肉を食べたいけど環境問題や食糧問題のためにヴィーガンになろうとしているんだったら、ジビエ食も選択肢の一つになると思います。

ヴィーガンになろうという動きが顕著になっていることは素晴らしいことだと理解しつつも、「いかなる動物のいのちも口にしない」と決断してしまうもったいなさは感じますね。そもそも野菜でも果物でもお米でも、食材になるということは、その過程で必ず何かのいのちは奪われていると知ってほしいんですよ。そう思って最近は、ジビエを伝える発信にも力を入れています。

(猪挽肉を使用したモロッコ料理、ケフタのタジン。)

あゆみさんとは言え、「家畜の肉はよくないよ」とか「ヴィーガンになるだけでは解決できない問題もあるよ」などとダイレクトに伝えることにはためらいます。なぜなら、情報をもとに自分で考えた上で選んでもらうことが大切だから。ヴィーガンになってもいいし、お肉を食べてもいいし、いずれも否定しませんっていう気持ちです。

いのちはあらゆる物に宿っている

ハタケト:わたしはあゆみさんがYouTubeにあげている、イノシシとたけのこのパスタができるまでの動画がすごく好きです。いのちも感じるけど、最後にはお皿の上でおいしそうに出来上がっていて、とても素敵な世界観ですよね。

あゆみさん:ここでの暮らしはあれが日常なんです。本当はもっと慌ただしいですけど(笑)ただ本当のことや、自分が好きだと思ってること、わたしはこれを良いと思ってるよ、ということを伝えたいという気持ちがあります。それを素敵だなと思って触れてくれた方が、もう少し深く本質に気付いてくれたらいいなって。

いのちはあらゆるものに宿っているって、すごく強く感じるんですよね。狩猟現場は今でもとても辛い一面もあって、何度経験しても決して慣れることはありません。でも獲れたばかりの、まだ温かいイノシシが解体されてお肉になっていく過程を見たり、いただいた新鮮な魚がピチピチ跳ねるとちょっと怖いなと感じたり、あと、果物や畑の野菜を収穫する時にも、水分がパーっとほとばしる瞬間があって、そうした全てが「いのち」だと感じるんです。いのちをいただく以上、一方的な搾取にならないようにしたい。「食べる」と覚悟して、実際にいただく時にはイノシシ肉も野菜も果物も、気持ち的には変わらない。必死で生きたいのちということに変わりはないので、どこからどこまでがいのち、なんて線は引けないですよね。

独りよがりな完璧主義から、しなやかな強さへ

ハタケト:いのちの解像度をすごく高く感じていらっしゃるんですね。そのようになったのはやはり島での暮らしを始めたからですか。

あゆみさん:それもありますが、ある時期、自分がまるで10代の頃から何も成長してないように思えてしまい、もっと自分の思いや言葉に責任をもって、自らできることを行動にする必要があると感じたんです。なんか全て上手くいってるかのような気がしてたけど、そこには我慢してる誰かがいたり、支えてくれる人がいたんだということまで考えられてなかったんですよね。

今は、直接いのちに触れる機会も多くなり、繊細というか、感覚が研ぎ澄まされている気もします。霊感とも違うけど、あらゆるものと繋がってる感覚はありますね。

あゆみさんわたしは元々、自立心のような強さがある方だと思うんですが、それはたぶん、強さというよりも曲げない精神力のようなもの。今は前よりも「完璧にできなくてもいい」「もしもできたならラッキー」と思えるようになって、これが本当の強さだと感じるようになりました。

元々すごい完璧主義で、なんかもう全部自分でやらないと気が済まないみたいなところがあったんです。それが「できなくても当たり前」と思えるようになってからは、自分のことが好きになれました。人と比べたり、自分を否定することもなくなった。そういう考えが一切なくなって、今はどうやったら誰かが継いでくれるかな、どうやったらこの仕事を渡せるかな、どうやったら新しい事業を作って人を雇えるかな、と考えるようになりました。全部自分の物、みたいな感覚が一切なくなったんです。

ハタケト:とても大きな変化ですね。

あゆみさん:そうですね。わたしも色んなサービスや人から情報をたくさんもらってるから、自分の知識とか知ったこと、楽しいこと、好きなことも全部誰かに向けて出していこうと思っています。

“何もない”島だからこそ、やりたいことで溢れている。

ハタケト:今後に向けて描いていることや夢を教えてください。

あゆみさん:今は人を雇用することを考えています。販売事業に人手を増やすのと、ジビエ肉ももっと仲間を増やして、みんなで販売できるようにしたいですね。それが叶ったらカフェかレストランを始めたいと思っています。それから中島は空き家問題も深刻なのですが、空き家から出てきた大量の家具や着物をアップサイクルして販売することも考え中です。

来たときは何もないと思っていたこの島には、実はいろんな材料があって、人と話していると色々なアイディアが出てくるので、じゃあどうしたら実現できるか、と考え始めると挑戦したいことがどんどん出てきます。たくさんの可能性があって、ここで暮らせていることがとてもありがたいです。

(インタビューはここまで)

あゆみさんの写真や動画から溢れ出る、ときめくような美しい世界観。それは、自分自身といのちと真剣に向き合い、あらゆるものと繋がっている感覚が生まれたことによってにじみ出ているものなのだと感じました。

誰しも自分の弱さはもっているもの。その弱さと向き合い本当の意味での強さを知った時、自分を否定したり、他人と比べたりすることが少なくなるのかもしれませんね。

あゆみさんが発信しているnoteやYouTubeも是非見てみてくださいね。