このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

今回ご紹介するのは、本メディア「ハタケト」を運営するTUMMY(タミー)株式会社、代表の阿部 成美(あべなるみ)です。「お腹から感動する暮らしを作る」をビジョンに掲げ、埋もれた魅力を発掘・発信するブランドストラテジストとして活動しています。

農家の出身でもなく、東京の大手広告代理店で働いていた彼女はなぜ「畑のそばの、豊かなくらし発見メディア」を立ち上げるに至ったのでしょうか?今回はその原点と思いに迫りました。

お腹から感動する暮らしを作りたい

ハタケト 改めてよろしくお願いします。まず阿部さんご自身のことと、TUMMYについて教えてください。

阿部   食と暮らしのブランディングカンパニーTUMMY株式会社代表のあべなるみです。出身は山口県で近くには畑も多い地域でしたが、サラリーマン家庭だったこともあり、幼少期に農業に触れる機会は少なかった方だと思います。でも高校で将来の進路を考えたとき、自分が好きなことってなんだろう?と真剣に考えたら「食べること」だと実感して京都大学農学部に進学しました。畑との接点ができたのはここからですね。

在学中に畑が大好きになり、卒業後は「もっと畑の魅力を伝えたい!」と思って、発信力を身につけるべく広告代理店の博報堂に入社しました。ブランドストラジスト(ブランドを作る戦略家)として働いた4年半は本当にたくさんのことを吸収させてもらいましたね。退職後、女性の多様な働き方を応援するスタートアップ企業で半年間修行し、2019年1月にTUMMY株式会社を立ち上げました。

大学生の時から「畑の魅力を伝える」ことを仕事にしたいと考えていたことを27歳で実現した形ですね。いよいよスタート地点に立った、という気持ちです。

TUMMYは、埋もれている魅力の発掘・発信を支援するブランディング事業が中心です。加えて、希少野菜に特化した「yasaicco(やさいっこ)」という八百屋事業、そして本ウェブメディア「ハタケト」の運営をしています。それぞれの事業に共通する思いは「お腹から感動する暮らしをつくる」ことです。社名のTUMMYは英語で「お腹」という意味で、わたしは「お腹」という言葉を「本当に心が動く、正直の象徴」という概念で捉えています。たとえば腹をくくる、腑に落ちる、腹がすわる、といった昔から本音に対して使われる表現がありますよね。

わたしは畑に行くと「腹の底から感動」することがとても多いんです。自分でもなぜここまで感情が動くのか、なぜこんなにも畑に惹かれてしまうのか、その理由はまだ探している途中です。もしかしたら、畑で育つ野菜を通して、生きることの素晴らしさと難しさ、両面に自然と触れているのかも、と感じることもあります。

こんなにも素晴らしいのに、畑の本質的な魅力はまだそれほど多くの人に認知されていません。それがもったいないことに思えてならないんです。そもそも、畑の魅力を伝える場が少なすぎる。たとえばスーパーの野菜売り場で見える情報は、産地と価格だけですよね。場所によっては工夫されてるのも見かけますが、魅力や豊かさは数値で提示できないこともあり、簡単に伝えられるものでもありません。それをTUMMYではブランディングを行うことでわかりやすく変換し、様々なかたに伝えることをサポートしています。お腹から感動する暮らしを作りたい、お腹から感動する文化を醸成したい、そう思って日々活動しています。

yasaiccoごはん会の様子

畑は単に「野菜を作る工場」じゃない。魅力の宝庫

ハタケト 「畑には感動があふれている」とことについてもう少し教えてください。

阿部   大学に入ったあとで、規格外野菜に興味をもちました。畑で出会った野菜は今まで見たこともない、二股になった大根。その姿形は今にも走り出しそうで、かわいくてかわいくて、衝撃的でした。でも農家さんからすると、規定の形ではないので出荷できないんです。普通に食べられるのでもったいないし、こんなにかわいい大根ちゃんのことをもっとたくさんの人にも見てほしい、と思いました。そこで、規格外野菜を「かわいいでこぼこベジタブル」と名付け、カフェとして規格外のお野菜を提供する「でこべじカフェ」というサークルを新しく立ち上げました。

サークルのおかげもあってさらに頻繁に畑に行くようにもなり、そこからどんどん畑の魅力にハマっていきましたね。土を踏む体験、太陽を浴びて体を動かす気持ちよさ、新しいお野菜に出会うときめき、旬の野菜がもつ本来のおいしさなど、行くたびに発見と感動があって、すごく自分が無邪気にいられたんです。「普段食べているものが、こうやってできているの!?」という驚きが、意外と身近にあること。畑は物理的な距離として、さほど遠くない。それなのに「畑」と「食べ手」は関係性や意識において遠すぎると思うんです。

野菜の作り手と買い手が遠いと、作り手のこだわりや大切にしていること、日々一生懸命取り組んでる情熱も一切わかりません。それでは、売り場で見える価格と見た目だけで判断されても仕方がない、ということになります。

効率化を行い、規定にあった形と大きさの野菜を安価に大量に作ることは、たくさんの人に栄養やエネルギーを供給するという観点で大切なことです。でも買い手であるわたしたちが、畑を単に「生産工場」として捉えることは本当にもったいないと思うんです。畑はこんなにも魅力に溢れているけれど、でも社会から見ると埋もれていて気づいてもらえない。だからこそ、畑や野菜の魅力を届きやすい形に変え、「畑を食べ手との距離を近づける」ことがTUMMYのミッションです。

ハタケト  畑と近づくことで感じられる感動があるんですね。

阿部    畑の感動体験は、本質的な豊かさに繋がっていると思います。大学を卒業した後も色々な畑を訪問して感じたことは、畑のそばで暮らしている人は気持ちも豊かに生きている人が多いこと。例えば、4人のお子さんがいる有機農家さんのお話です。あるとき、採れたての野菜を使ったごはんを作って食べていたとき「ぼくは今、子どもたちと一緒に、世界一おいしいごはんを食べている」と実感したそうです。これほど豊かな気持ち、本当にすごいと思いませんか?

もちろんプロの農家さんだからこそ、だとも思いました。でも、わたし自身が週1ファーマーを始めてみたら「週に数回の関わり方でも畑の豊かさは享受できる」と実感できたんです。

生活を豊かにする、週1ファーマーという暮らし

柴海農園さんに仲間で訪問

ハタケト 週1ファーマー、とはなんですか?

阿部   農家さんのように毎日ではなく、週1日農園で畑作業をするワークスタイルです。わたしの場合は週4日東京で働き、週1日だけ千葉県印西市の柴海農園さんに通っていました。作業することは雑草抜き、野菜の収穫、包装が多いですね。報酬として時給を提示いただいたのですが、私はお野菜の現物支給という形での契約をしていました。今は妊娠中なのでお休みしていますが、畑が恋しくてたまりません(笑)

週1ファーマーを始めたきっかけは、起業したあとに1週間だけ畑インターンに行ったことでした。元々、社会人農業サークルで知り合い、それがご縁となって今ではyasaiccoのお野菜を仕入れさせていただいてる柴海農園さんで1週間お世話になったんです。インターンの目的は、畑と向き合う会社として自らの気持ちの切替え、野菜についての学び、新しい気づきを得るということの3つでした。

そこでの一番の発見は、働く方の多様性と働き方でした。元航空技士のおじいちゃんや、料理人として働きながら畑でも働く方など、個性豊かな方が週1〜2回という働きかたをされていたんです。

「こういう関わり方もできるんだ!」とすごく衝撃を受けましたね。そこで週1日は農園で働きたい、と思い始めてみて週1ファーマーと自ら名乗ることにしたんです。今考えてみたら、起業したての経営者がすることではない気もしますね(笑)

しかし野菜を扱うひとりとして、畑で旬の情報を得られたことは大きなメリットのひとつです。柴海農園さんは年間100種類以上の野菜を作っているので、とても勉強になります。またそれ以上に、かわいい野菜に出会うときめき、その野菜をおいしく味わえる感動、そのおかげで食事のたびに幸せな気持ちも重ねられます。また、畑で行う小さな作業中は、瞑想のような気持ちになり、頭の中も整理されるんです。運動にもなり、頭はすっきりして、食卓も豊かになる。農園仕事を週1回取り込むことで、豊かさを感じられる生活になりました。

ハタケトを通じて伝えたい、「豊かさは人それぞれ」

青森にて取材

ハタケト 阿部さんは発信にも力をいれてらっしゃいますよね。週1ファーマーについて、周りの方の反応はありましたか?

阿部   最初に週1ファーマーのことをTwitterで発信したところ「畑に行きたい!」という声をたくさんいただきました。予想以上の反響で驚きましたね。そのあとヒアリングして気づいたのですが、多くの方が「畑や野菜に興味はあるけれど、どこに何を聞いたらいいのかわからない」という状態でした。確かに、週1回の農作業体験を受け入れてくれる情報はネットで見かけることも少ないですよね。加えて、畑作業と暮らしに関する情報を探そうとすると、移住や就農というカテゴリーばかりになる。これはまさに畑の魅力が「埋もれている」状態といえます。それならわたしが紹介しよう!と思い、メディアの構想を始めました。これが「ハタケト」の誕生です。

ハタケト 「食べ手を畑に近づけるメディア」ですね。

阿部   ハタケトでは、様々なスタイルで畑と関わっている人をご紹介しています。私のように畑に通っている人、クリエイターだけど畑を領域にしている人、移住した人、農家になった人など、思想・暮らし・食の情報といった切り口も色々とご用意しています。

取材をしていると、私にとっても参考になることがすごく多く、毎回違う発見があります。もうすぐ子どもが生まれる予定なので、わたしも良いかたちで「畑のそばの暮らし」を始められたらと考えていますし、「畑の何が人を惹きつけるのか」、ハタケトを通してわたし自身ももっと深めていきたいんです。

なのでぜひ、多くの方に自分にあった暮らしや人生を考えるツールとしてハタケトを活用してもらえると嬉しいです。ちょうどいい畑との関わり方は人それぞれ。毎回新しい発見があると思うので、今後も楽しみにしていてください。

代表阿部のハタケトにかける思い、ハタケトとは何か?をさらに知りたい方は、こちらの「ハタケトとは」のページをご覧ください。

次回は阿部の週1ファーマーの影響を受け、「週2農園ワーカー」をはじめられた田山ゆきさんのインタビューをお届けします。どうぞお楽しみに!