このマガジンは、様々な形で暮らしに「ハタケ」を取り入れている人やその暮らしの紹介を通じて、自然と自分の双方を愛せる生き方を紹介するメディアです。

あけましておめでとうございます。年明け早々緊急事態宣言という、これまでの「あたりまえ」がさっそく通用しない新年の幕開けとなりました。

ニューノーマルの暮らしをまだまだ模索中の方も多いと思います。

本日はコロナをきっかけにライフスタイルを変え、Iターン移住先で畑をはじめた、PR会社社長の物語。ハタケト代表のあべが大尊敬している経営者、70seeds株式会社代表取締役の岡山史興(おかやま・ふみおき)さんにお話をうかがいました。

PRやブランディングなど、発信の仕事に関わる方はもちろん、これからの働き方、暮らし方に悩めるすべてのみなさんに知ってほしい、生きるヒントをお届けします。

働き方を変える

ハタケト:岡山さん、本日はよろしくお願いします。さっそくですが読者の方にむけてどんなお仕事をされているかなど自己紹介をお願いしてもいいでしょうか。

岡山さん:70seeds株式会社代表の岡山です。70seedsは、「次の70年に何をのこす?」をコンセプトに、次の時代の「あたりまえ」を作る事業を、PRと編集の力で支援する会社です。東京都の門前中町にオフィスを構え、現在7名の従業員が在籍しています。プライベートでは、2018年に家族で日本一面積の小さい村、富山県舟橋村に移住しました。以来、東京と富山を行き来する2拠点生活をしていたのですが、新型コロナウイルスが流行した昨年からは、舟橋村を拠点に、フルリモートの働き方にシフトしました。

ハタケト:そもそもなぜ富山県の舟橋村に移住したのでしょうか。

岡山さん:移住は、東京での子育てに疑問をもったことをきっかけに考えはじめました。わたしが長崎県の田舎で育ったので、東京の満員電車に揺られる小学生を見て、これがあたりまえでいいのかな、と。

そんなころ、仕事をきっかけに舟橋村の「共助の子育て」の取り組みを知りました。舟橋村は富山市から車で15分程度という立地にあり、村の積極的な取り組みもあって子育て世代の転入が増え続けている村です。「子どもが大事」という空気感が共有されている環境は魅力的でしたし、役場の担当者が情熱を持って改革する姿に心惹かれ、移住を決意しました。

とはいえ、会社は東京都内にあり、わたしは代表。移住後は一週間のうち火曜〜木曜が東京、金曜〜月曜は富山という生活をしていました。

ハタケト:それが新型コロナウイルスで移動を控えるようになったと。

岡山さん:そうですね。ただ、新型コロナウイルスが決め手ではありますが、実はその前から生活を変えなければならないと考えていました。2拠点生活と言いながら、実際は北海道から九州まで全国を飛び回る生活を送っていたんです。なかなか家に帰らない自分に、妻から「このままだとやっていけない」と言われました。

家族のことを考えて移住したのに、家族を苦しませてしまっている。

今まではついついお役に立ちたい相手がたくさんいるから仕事を受けすぎてしまっていたのですが根本的に働き方を見直そう、と思った出来事でした。そこにこの新型コロナウイルスの到来。会社のあり方も変え、全社員がフルリモートで働ける仕組みに変えたんです。

仕事って、いかにリアルかが大事

(立ち上げた舟橋村の農産物ブランディング組織FABO)

岡山さん:村に移住後は、自分のもっているPR力を活かし、村の農産物をブランド化する取り組みもはじめていました。ただ、なかなか村の農家の方々と距離を詰めかねていたんです。今思えば、村がいい!と周りにいいながら、実際は村にいない生活をしていたので当然ですよね。

そんなわたしと村との距離を縮めてくれたのが、畑でした。

ハタケト:どういうことでしょう。

岡山さん:村には、年間2000円で畑を貸し出してくれるところがあり、去年のゴールデンウィークに時間があったのではじめてみたんです。実際にやってみると、例えば「かぼちゃってこんなに作るのが大変なんだ」と気づかされ、農家さんへの尊敬の気持ちが高まりました。「自分も畑をはじめたんですよ」と言うと喜んでくれますし、ちょっとした加工品の試作は自分の畑のものでできるようになりました。畑をはじめたことで、村の方々とも改めて関係性を編んでいくことができたです。

それだけでなく、畑はフルリモートになった自分にとてもいい影響を与えてくれました。わたしはすべての仕事がオンラインになり「リアル」がなくなると、(知識や経験の)貯金を使い果たしてしまうと考えています。畑はそんな自分の「リアル」を補ってくれる場になったんです。何もない土を耕し、作物を育てるその一連の営みは人間の営みの本質を思い出させてくれます。

(取材は冬にいったので、畑はすでにほとんど片付けられてました。)

ハタケト:岡山さんの言う「リアル」ってどういう意味ですか?

岡山さん:頭の知識じゃなくて、こういう風にものごとはできているんだと体感できるものが「リアル」です。仕事っていかにリアルかが大事だと思っています。例えばPRの仕事だと、どう話題にするかというノウハウばかりが注目されますが、それよりもずっと大事なのは対象とちゃんと向き合って生まれた関係性そのものです。ものごとの成り立ちにリアルに触れてはじめて、相手と誠実な関係性を築けると思うんです。PRの仕事をしている人は畑でも釣りでも、自然に触れる体験をした方がいいですよ。「人為」的なものだけに触れていると、本質からどんどん離れ、戻れなくなってしまいますから

(大根がもらった〜!と喜ぶ息子くん。)

畑が生活と仕事をつないでくれた

ハタケト:畑が仕事に与える影響はとても大きいのですね。岡山さんにとって畑は「仕事」という感覚ですか?

岡山さん:畑は村とのつながりができ、採れたものが食卓にのぼり、家族と楽しめるので、仕事と生活の全てにつながっているもの、という感覚です。

生活に関していうと、もともとわたしは料理はあまりしておらず、したとしてもチャーハンやカレーといった独身時代によく作っていたものばかりでした。でも畑をはじめてみると、ナス、きゅうり、トマトなど、育てたものをどう食べきるかを考えるようになって、いろんな食べ方に挑戦するようになりました。それこそ、きゅうりを炒めたらおいしいなんて自分できゅうりを作ってみるまでは知らなかったです。

ハタケト:畑は岡山さんおひとりでやっているのですか。

岡山さん:家族みんなで協力してやっています。できたものを料理して食べるところまで含めて、畑は家族共同経営の会社のような感覚です。共同経営というと、本当は子育てもそうなのでしょうが、今までの自分は、子育ては頭でわかっていながらも実際は仕事しか向き合えていなかった。仕事人間だったわたしに「家族みんなで向き合う」ということを教えてくれたのも畑です。

生活をすることが何よりのインプットになる状態を畑のおかげでつくることができました。

ハタケト:家族との向き合い方を変えたいという思いに対しても畑が果たしてくれた役割は大きかったんですね。

思い上がりを捨て、信頼していく

ハタケト:他に畑をはじめて変わったことはありますか。

岡山さん:会社のメンバーに仕事をふれるようになったことでしょうか。

ハタケト:どういうことですか!?

岡山さん:あたりまえですが、畑の土の中にはミミズがいて、受粉しないと作物は育たない。作物自体の育とうとする力もある。目に見えていないだけで、自然はいろんなものが複雑に作用しあっているんですよ。そういう自然の理にふれていると、自分のできることは限られているということに気づくんです。人が取れる責任の総量は決まっているということをやっと認められるようになりました。ついつい働きすぎてしまうという話をしましたが、自分が頑張ればどうにかなるという思い上がりを捨てることができました。畑は、自分以外のものを信じて委ねていく修行になっています。

ハタケト:すごい。それは大きな変化ですね。

岡山さん:その上で多くの人の役に立ちたいと思うのなら、人を育てるしかありません。作物がすくすく育つ土のように、今は放っておいても育つ環境をどうつくるかに目が向くようになりました。経営者として、大きな気づきです。(笑)

自然から学ぶことはたくさんある。あらゆることはつながっているんです。

(インタビューはここまで)

畑が仕事を、生活を、心を心地よくつないでくれる。

リモートワークが多くなっている方も多いと思います。あなたも暮らしの「リアル」として土に触れてみませんか。気づかされることが多くあるかもしれません。