このマガジンは、様々な形で暮らしに「ハタケ」を取り入れている人やその暮らしの紹介を通じて、自然と自分の双方を愛せる生き方を紹介するメディアです。

生き物である野菜。日々仕事をしながら、思うように野菜を育てるのはなかなか難しいですよね。でも、もし職場に畑があったら、日常的に野菜のお世話ができると考えたことはありませんか?

そんな可能性を教えてくれたのは、福井県にある眼鏡メーカー・株式会社シャルマンの社内で部活として活動する畑部(はたけぶ)の皆さんです。2019年3月に発足した畑部の部員は、若手からベテラン社員さんまで合わせて14名(2020年12月)。会社から徒歩5分の畑と、社屋の屋上にあるプランター菜園で2020年は41種類もの野菜を育てたそうです。

職場に畑部をつくることにはどんな良さがあるのでしょうか。
部長の新井久礼太(あらいくれた)さん、副部長の舛田洋輔(ますだようすけ)さんにお聞きしました。

(右から部長の新井さん、副部長の舛田さん。オンラインでご協力頂きました)

「畑がやりたい」声にしてみたら仲間も畑もすぐそばに

ハタケト:お二人はどんなきっかけで会社に畑部をつくったのでしょうか。

舛田さん:わたしが畑に興味をもったきっかけはもう15年ほど前で、知人の畑に遊びに行ったことでした。畑に足を踏み入れるなり「そこに生えているアスパラ、おいしいから採って食べてみてよ」と言われたんです。「このまま食べられるの?」と不安に思いながらもポキっと折って食べると、あまりのおいしさに驚き、感動しました。それで自分も畑をやりたくなって土地を借りてしばらく一人で楽しんでいたのですが、数年前に海外赴任があり畑から離れてしまったんです。帰国してまた再開しようと思ったときに、新井さんも畑をはじめたがっていると知りました。

新井さん:わたしは小さい頃から野菜を育てることが好きで、手軽にできるプランター栽培は前からやっていました。畑もいつかやってみたいと興味があったので、舛田さんとの出会いが後押しになりました。

舛田さん:最初は市民農園を一緒に借りようとしていましたが、うまく見つけられず、試しに会社に相談してみたところ、すぐそばにある未使用の会社の土地を貸していただけることになったんです。一反(いったん。約0.1ヘクタール、または約300坪)ほどある十分な広さの土地です。

(みぞ掘り中の様子。後方のオレンジ色の建物が同社の社屋)

舛田さん:最初は開墾に苦労しました。スコップもなかなか刺さらないほど土が固く、土の中には持ち上げられないくらい大きな岩が埋まっていることもあったりして、本当に大変でしたね。がんばって開墾しているうちに「畑部ができたみたい」と社内で話題となり、徐々に部員も集まりました。

ハタケト:開墾から始めたんですね。現在の部員は14名とのことですが、チームとしてどのように活動されていますか。

新井さん:楽しみながらやりたいので、当番制などにはせず、それぞれ好きなタイミングで活動しています。収穫できたものは個々人で持って帰りますが、イベントとして採れたての野菜をBBQや焼き芋で食べることもあります。できるだけ化学肥料と農薬を使わない栽培にチャレンジしているので、近所の精米センターや乗馬施設などから、もみ殻や馬糞をいただきに行くのも活動のひとつです。人手が必要な時には声を掛け合いますが、基本はそれぞれが自由に楽しんでいます。

(収穫したさつまいもをその場で焼き芋に)

舛田さん:普段は土日の午前中に畑に行っていますが、野菜たちが気になったら平日の出社前や昼休み、就業後にも畑に行けて水やりや適期の収穫といった世話ができます。会社に畑があるのはそういう点でもすごく良いです。また、資材などを買う予算や、農作業をする人手が多ければ畑でできることも広がるので、部費がいただけることや、誘える仲間が社内にいることも、会社の部活として畑をする良さだと思いました。大変なことも喜びもみんなで分かち合えるので、一人で畑をしていた時よりもずっと楽しいですね。

楽しみ方はそれぞれ。でも一緒に楽しめる。

舛田さん:部員の中には野菜を食べることは苦手で、畝(うね。土を盛り上げた部分)を作ったりやみぞを掘ったり、草取りなどを好んで参加する人もいるんです。初めは不思議に思いましたが、たしかに収穫して食べることだけが楽しいわけではなく、畑にくることや外で作業することにも楽しみや癒やしを感じられるんですよね。

わたしたちは普段、眼鏡をデザインする仕事をしていることもあり、畑にいるときも、ものづくりの視点をもって楽しんでいます。どうしたらおいしくて美しい野菜ができるのか、できたものをどう料理したらさらに魅力的に見えるのか、と考えることも多くて、デザインと同じだな、と感じますね。

ハタケト:同じ活動をしていても、楽しむ視点はそれぞれ違っているんですね。

舛田さん:勉強しながらなので、「これでおいしく育つかな」とか日々悩みごとだらけですが、思い描いたような野菜ができたときはとても嬉しいですし、トライアンドエラーも楽しみの一つになっています。

ハタケト:エラーもストレスにならずに楽しめるのはなぜでしょうか。

舛田さん:うまくいかないことも発見だと思うんですよね。工夫する中で新しい可能性に出会うことも多いんです。先シーズンの里芋なんて今まで見たことないくらい小さかったんですが、それがすごくかわいかったんですよ。スーパーではぜったいに出会えない小ささで、たとえあっても買われないサイズでしたが、「大きくならなくて残念」と思う気持ちより「せっかく実ってくれたこの子たちをどう料理してあげようか」と考える楽しさの方が勝っていました。

(小さな里芋は「里芋の赤ちゃんだね」と話ながら、子どもたちと一緒に塩茹でして食べたそう)

舛田さん:うまく育たず悲しいこと、立派な野菜ができて感動すること、かわいらしい芽や花に喜ぶこと、小さな野ネズミに出会って驚くこと、畑では本当にたくさんの感情をもらっています。常に感性を刺激されているという点では、デザインの仕事にも良い影響があるかもしれませんね。

楽しさのシェアがコミュニケーションを深めた

舛田さん:きれいな野菜がたくさん収穫できた時には、部員以外の社員にお裾分けすることもあります。社員同士であっても、普段直接的に関わらない人もいるので「畑部の野菜、おいしかったよ」とか「今は何の野菜を作ってるの?」と声を掛けてもらうことが増えて、コミュニケーションがものすごく増えました。野菜は誰にあげても喜ばれるのが嬉しいです。野菜をきっかけに仕事以外の話もしやすくなり、気兼ねなく話せる仕事仲間が増えたのを感じます。

新井さん:わたしはまだ社歴が浅いので、部署の垣根を越えて色々な先輩と接点ができるのはありがたいです。最近では会長にも野菜をお裾分けすることができたのが嬉しかったですね。

(夏のある日。あまりの暑さに半日でヘトヘトに。部員同士の談笑も楽しみの一つです)

ハタケト:コミュニケーションや人脈の広がりが働きやすさに繋がるんですね。

新井さん:休憩時間にも、屋上にあるプランター菜園を見に行くことがよくあります。疲れた時にはプランターの世話をしながらパクっとつまみ食いすることも(笑)。採れたては味が濃くて格別なんですよね。最近はルッコラと大葉春菊がお気に入りです。

舛田さん:屋上は部員でなくても休憩に来る人はいますし、上から畑もよく見えるので、野菜の世話をしていると話しかけてもらえることも多いです。「楽しそうだね」とよく見にきてくれていた社員が、気づけば部員になっていることもあります。

(屋上のプランターでは料理に使いやすいハーブや香味野菜を育てています)

舛田さん:部活の活動記録と共有の目的で畑部でインスタグラムをやっているのですが、オープンにしていることで思いがけない縁に繋がることがありました。社長や会長など経営陣にも認識いただいたり、人事部からは就活生に向けた部活紹介を頼まれたり。インスタを通して繋がった農家さんに畑の相談ができたり、取引先とコミュニケーションが生まれたこともありました。わたしたちの活動が、会社の印象を良くすることにも繋がっていれば嬉しいです。

畑は暮らしの充実にも繋がった

ハタケト:畑部の活動を通して、生活面でも変化はありましたか。

舛田さん:スーパーで野菜を買うこともたくさんありますが、育てる大変さがわかるので、どんな野菜も無駄にしたくない、という思いが強まりました。

新井さん:愛着が湧いているからかもしれませんが、自分たちで作った野菜だと本当においしいと感じるようになりました。わたしはブロッコリーが苦手なのですが、畑部で作ったスティックセニョールというブロッコリーはすごくおいしいんです。

それと、じゃがいもにも色が鮮やかな「シャドークイーン」や「インカのめざめ」などたくさんの品種があることを知り、普段スーパーで見ないような野菜に出会えて食べるのが楽しいです。夕食は買って済ますことが多かったのですが、収穫した野菜を食べるために料理をする機会が増えました。

(ある日の収穫。左から、スティックセニョール、紫にんじん、青首大根、辛味大根、ビタミン大根)

舛田さん:家族のコミュニケーションも増えましたね。珍しい野菜を料理すると「何ていう野菜?」と聞かれますし、色々な野菜をあの手この手で使ってみるので料理のバリエーションも増えて、子どもたちも好きな野菜が増えた気がします。ただシャドークイーンでヴィシソワーズスープを作ったときは紫色だったせいか反応はいまいちでしたけど(笑)。

新井さん:休みの日に子どもと一緒に畑にくる部員も多いので、食育にも繋がっていると思います。畑で遊びながら、農作業を手伝ってくれることもあるのでわたしたちも助かっていますしね。大人たちの趣味の時間と子どもの遊びの時間が同じ場所にあるのも畑の魅力だと思います。

(じゃがいもの植え付けを子どもたちと一緒に)

舛田さん:新型コロナウイルスの影響で色々なレジャーに制限がかかっていますが、わたしたちにとっては畑が楽しみの場なので、実はそれほど自粛の影響も受けていないんです。こんなに楽しくて、しかもおいしいものがあるということをたくさんの人に伝えたいですし、同じ楽しみを分かち合える仲間を広げていきたいです。

(インタビューはここまで)

畑部さんのインスタグラムは、楽しさが画面からも伝わってきます。取材中、「毎日野菜たちが気になってしょうがないので、畑部をはじめる前よりも会社に行くこと自体が楽しくなったんです」という羨ましいような本音も聞かせてくださいました。視点を変えてみると、楽しいことを分かち合う方法は意外と近くにあるのかもしれませんね。