このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

ハタケト読者様には「食に関わる何かをしたい」と思っている方も多いのではないでしょうか。でも「じゃあ、何をするか」を決めるって、なかなか難しいですよね。

今回お話をお伺いするのは「旅するおむすび屋」として各地で活動する菅本香菜(すがもとかな)さん。

オリジナルな肩書きで食に関わる仕事をするかなさんは、どうやって自分にあった食への関わり方を見つけ、決断したのでしょうか。今回は同じく食への関わり方を模索中のハタケトライターのかわしまがお話をお伺いします。

食卓を大事にしたいわたしが辿りついた「旅するおむすび屋」というお仕事

かわしま:「旅するおむすび屋」とはどんなお仕事なのでしょう。

かなさん:各地でおむすびを作るワークショップ、生産者を訪ねて、食材がどうやって作られているのか教えてもらう「おむすびツアー」、自治体の依頼で地域の特産品をおむすびにするPR活動や食育の講師をしたりしています。最近だとコロナの影響でワークショップができなくなってしまったので、おむすびを題材にした絵本を作成したり。

かわしま:なぜ「旅するおむすび屋」という形に辿り着いたのですか?

かなさん:実はわたし、中学高校時代に拒食症だったんです。病気を乗り越えていく中で、何を食べるか、誰と、どんな風に食べるか、いわゆる「食卓」が大事だと思いました。その気づきから大学時代は民俗学を専攻し、卒論も「食卓」について書きました。

その頃から「食の領域で何かをしたい」と思っていたんですが、何をやるかが定まっておらず、就職後もモヤモヤを抱えながえらアンテナを張ってました。

その最中、知り合いに紹介された女の子と意気投合。わたしと同じ民俗学を学んでいて地域の特徴をよく分かっているお米屋さんで働く子でした。会って話がしたい!と、お互いのスケジュールのすきまを縫って会ってみると、もう意気投合。

わたしは海苔漁に出向くほど、海苔が大好き。彼女はお米が大好き。海苔とお米といえば、とそこで「おむすび」というアイデアが生まれました。

おむすびって食材を通じて地域のことを知れるし、地域の色も反映できる。そして誰にとっても身近なもの。「旅×おむすび」で活動できたら面白いよね、とずっとモヤモヤしていたものが、なんと彼女と会って30分で解決したんです!これは絶対に実現させたいという思いから次の週にもう一度会い、旅するおむすび屋は生まれました。

かわしま:「おむすび」に絞ってしまうことに勇気は必要ではなかったですか?

かなさん:絞ったからこそ、わたしは考えやすく活動しやすかったです。「旅するおむすび屋」という肩書きも良かったみたいで、色んな人が「なにそれ?」と尋ねてくれました。おむすびは誰でも知っていて誰でも作れて誰もが関われる余白があるので、世界がすごく広がったんです。

かわしま:おむすびの「余白」とは?

かなさん:おむすびって子どもたちや田舎のジジババ、芸能人や政治家やアーティストだって関われるものですよね。わたしが開催したワークショップを地元の方々が継続して行ったり、参加してくれた高校生が今度は中学生にワークショップを開催してくれたなんて例も。

おむすびが間にあることによって、誰もが交流できるんです。

おむすびはあらゆる場所、時間、人の「間」に入れる。だから、人と人、人と地域も”むすぶ”ことができると思っています。

かわしま:おむすびにそんなにも可能性があったなんて…!最初「おむすび」と聞いてやることをすごく絞り込んだなあと感じましたが、今の話を聞いてむしろおむすびに決めたことで、できることがものすごく広がったことが伝わってきました。

「食に関わることがしたい!」発信が呼び寄せたご縁

かわしま:かなさんは「不動産営業→熊本食べる通信→CAMPFIRE→旅するおむすび屋(現在)」と経歴がとてもユニークですね。大学時代から食に興味があったのに、なぜ最初は不動産会社に入社されたのですか?

かなさん:何かしら食に関わりたいとは思っていたんですが、食品メーカーやカフェで働きたいわけではない。どう食に関わりたいかが分からなかったんです。しかも関心が強いからこそ、少しでも自分が納得いかないことがあると、その仕事をやりたくなくなってしまうのではないかと思い、それだったら全く別の業界でまずは自分自身に力をつけるべく修行しようと決めました。

大学時代は人を巻き込んで色々な企画していたのですが、いくら企画が良くてもきちんと魅力を伝えお金を工面しなければ成り立たないことを学びました。そこでビジネスとして相手にきちんと伝える力を鍛えるために営業の仕事に就いたんです。

とはいえ、その間も「食に関わることがしたい」ことはずっと発信していました。すると「熊本で『食べる通信※』を一緒に立ち上げないか?」という話をもらって。

がっつり食の生産の現場を知ることは本当に新鮮で、もっと早く関わりたかったですね。中学高校時代の拒食症のときは、食べ物を「もの」としか捉えていなかったちゃんと熱量がこもったもの、想いがこもったものって知っていたら、あの頃のわたしは何か違ったかもしれない

※食べる通信…食のつくり手を特集した情報誌と、彼らが生産収穫した食べものがセットで定期的に届く”食べもの付き情報誌”。

1年半程熱中していましたが、熊本地震をきっかけに休刊に。そんなとき、またも発信をしていたらクラウドファンディングを運営しているCAMPFIREの、ローカル・フード担当としてお誘いをもらい、働くことになりました。

ぼんやりでも良い。「やりたい」を形にする初めの一歩

かわしま:実はわたしも、食に関する何かをやりたいけど何をやりたいのかハッキリできていない張本人なんです。お話をお伺いしていると発信することがいかに重要か分かります。ですがまだ何をやりたいかはっきり決まっていないので、なにをどう発信していいか躊躇ってしまっています。

かなさん:わたしの発信は「食に関する何かをやりたい!」くらいの、ふわっとしたことだったと思いますよ(笑)。 発信しないことには何も始まらないので。あとはわたしは人にも良く会っていて、そこでも自分の思いをいつも伝えていました。

かわしま:そんなにふわっとした内容で良いんですね…!人によく会うのはなぜですか?

かなさん:面白いからです!幼いときから自分の世界を広げることが大好きだったんです。中学高校では拒食症であまり外に出られなかったので、大学に入ってその欲求が大爆発!

たくさん人と出会いたくさんの人と話しているうちに、自分の「コンプレックスだった拒食症の過去」も打ち明けられるようになりました。そのうち拒食症だったわたしだからこそ、できることがあるのではないかと思えるようになりました。

かわしま:腹をわって話せる仲間と出会い、自分と向き合ったからこそ自分にしかできないことがクリアになってきたのですね。

大きくなくて良い。遊びから小さな商いをじめよう。

かわしま:「食」の仕事はCAMPFIREでも実現出来ていたように思えるのですが。

かなさん:クラウドファンディングを立ち上げる方々って、自分のやりたいことに対して前向きで、「どうしたら実現できるか」を常に考えているので本当に楽しかったです。とてもやりがいがあるので、今も業務委託として続けさせてもらっています。

その皆さんに触発され、「自分も自分でやりたいことを生み出すことができるのでは?」という思いが芽生えたんです。「旅するおむすび屋」の構想が決まったら、わたしたちも活動資金を集めるために、クラウドファンディングを立ち上げました。

皆さんに応援いただき、100万円ほどお金が集まりました。その時点では「旅するおむすび屋」は事業としてやっていこうとは思っていなかったんです。100万円が尽きたらどうするかなんて考えてもいませんでした。しかし、いざ活動を始めてみると、お金を払ってでも来て欲しいという声を続々いただいて。

しばらくは副業のライフワークとして旅するおむすび屋を続けていましたが、有難いことにどんどん仕事が増え、本業を週5でしながら続けるのは厳しいな…となったときに独立しました。

かわしま:独立にあたって、不安はありませんでしたか?

かなさん:お金がなきゃ生活が出来ないので、「旅するおむすび屋」の仕事だけで今の収入分は稼げると見込めてから辞めたんです。

だから不安に感じるほどの「ものすごい決心」みたいなものはしていないんです。気がついたら独立していた、って感じで。

かわしま:「何かを始めるときは、今までのものを捨てて挑まねばいけない」と思っていたのですが、小さな始め方もできるんですね。なんだか勇気が湧いてきました!

一歩踏み込んだわたしへ。その時その時を楽しむために。

かわしま:仕事を始めたあと、楽しく働くために工夫されていることはありますか。

かなさん:設計しすぎないことですかね。おむすびのように、自分自身にも余白をもつようにしています。

実は今も「旅するおむすび屋」のサービスメニューって定まってないんです。金額も詳細までは設けていない。とりあえずお声がけいただいたら、「やります!」とお返事するだけです(笑)。

やったことがない依頼をされることもしばしばですが、自分では出来ない部分は人にも頼りながらその度に挑戦しています。

それと、「自分がこうなってしまったら精神衛生上よく保てないない」という範囲を守ることも大事にしています。例えば、貯金はこれくらい、収入はこれくらい、といった。その最低ラインを確保できれば、新しい出会いにワクワク出来ます!

かわしま:なるほど…最低限のラインは確保して余白を作り、あとは新しい出会いを楽しむ。素敵です!

かなさん:今だから言えるのですが、悩むことは悪いことじゃないと思っています。悩んでるときって自分と向き合い、自分でやりたいことを見つけるチャンスのときなんです!今までの自分の人生を振り返っても、悩んでいるときに自分のやりたいことに出会ってる。

だからかわしまさんも今をチャンスと思って、自分の悩みを愛してあげてくださいね。

(インタビューはここまで)

旅するように軽やかに生きながら、ずっとやりたかった「食」の仕事をしているかなさん。やりたいことを自ら発信することや、小さな1歩を踏み出すことの大事さを教えていただきました。

取材当日に握っていただいた美味しいおむすびは、やりたいことが何となくあるけれど踏み出せないわたしの背中を優しく押してくれているように感じました。

(かなさんと、ハタケト編集長あべ&ライターかわしま)