このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

今回は米農家FARM1739(イナサク)と米菓子製造会社TINTS Inc.を経営する井上敬二朗、真梨子夫妻(通称パフ夫婦)にお話を伺いました。前編に引き続きの後編です。

田んぼで「意味」が見つかって、農作業も好きになった

ハタケト:前回、那須でお米農家をされている真梨子さんのお父さんが倒れた、というところで話が終わっていました。

真梨子さん:病院に駆けつけたとき、父は瀕死の状態でした。2ヶ月くらい集中治療室に入っていたほどです。わたしたちは岡山で菓子製造のTINTSを立ち上げようとしていて、もう改修工事も完了していました。でも全て手放して「とにかく那須町へ戻らなきゃ」となりました。

敬二朗さん:真梨子の父は、農家でありながら当時那須町の町長もしていて、あちこち田んぼができない方から要望を引受けていました。田んぼは10ヘクタール、20ヘクタールと広がり、倒れた頃には22ヘクタール、だいたい東京ドーム4.5個分くらいになっていました。公務と農業を兼務して、朝3時から農作業をして、8時に役場へ。忙しい日々を送っていたんです。

僕たちは、お米づくりは岡山で少しだけやっていましたが、こっち来てみて、規模が違いすぎて、2人で愕然としましたね(笑)。

真梨子さん:なんとか多忙な状況を打破したいと思うけど、やるべきことが山のようにあります。正直最初、田んぼの畔の草刈りをしていて「なんでこんな1銭にもならないことをしないといけないんだ」…と絶望的な気持ちで向き合っていました。

ハタケト:突然始まった米農家生活、しかもとっても忙しい…。もちろん今もお忙しいと思いますが、今のお二人からは、”忙殺”されているような印象は受けません。何かきっかけがあったのでしょうか。

敬二朗さん:わたしたちが「食糧を作ること以外の田んぼの価値」に気がついたことです。

真梨子さん:あるとき、田んぼの生態系観察をする機会があって、それに参加したんですが、そこに来ていた先生が「ここはすごいですよ、珍しい生物がいっぱいいますよ」と話してくれたんです。聞いているうちに「田んぼってもしかしてすごい価値を持っているのでは?」と見え方が変わってきたんです!

約3000年の時を経て、田んぼは人工のものではなく、もはや生き物にとっての暮らしの場所。そこに人間もいるわけです。そのときから、わたしたちの行動が、全てが繋がっていると思えるようになり、仕事の捉え方が変わりました。ただ食糧をつくっているのではないんだなと。

農業を生業にするということ。

ハタケト:ただ食糧をつくっているのではない。

敬二朗さん:例えば那須で考えても、地域の色、魅力があると思うんですが、その多くはそこに行くと食べられる「食」と「風景」なんじゃないかと思います。食の裏には地域特有の農業があると思うんです。フランスなら、ボルドーはぶどう作りがあってワインが盛んだったり、ドイツでは養豚があってソーセージが作られていたり。その地域の特色、文化の背景には農業がありますよね。

日本って言えば、稲作なんじゃないでしょうか。お酒、お味噌、和食、そして田園風景。どれも世界から見たら日本を特徴づけるものです。

真梨子さん:田んぼは景観や生態系を維持していますし、稲作の仕組みってこの国の歴史そのものなんですよね。

秀吉の時代にできた「太閤検知」があったから、土地と人が紐づいて同じ場所でトラブルなく安心して耕作できるようになったし、その時に灌漑用水網(水路)がきちんと整備されたと聞いています。だから、いまこうして農業が営めるのは、過去の人々の並々ならぬ努力と知恵が結集されたもので、そのおかげで私たちが働くことができるわけです。

神事だって、稲作の時期と連動して組み立てられています。

ここ数十年で、食のトレンドの変化があり、こうした文化的背景や歴史が失われようとしている。そういう状況を見て、私たちはとても危機感を感じるようになってきたんです。

敬二朗さん:今は何でも選べる時代。食の背景にある農業のことを知っていただけるようにしていかないと、選ぶ人はどうしても値段が第一の基準になってしまいますよね。生産の現場を知らなければ、何が・どうだから・この品質・この値段なのか?ってことがわからないと思うんです。

やっぱり、生産者が発信していかないと、こういった溝が埋まることはないと思います。

米離れは右肩下がりで進行しています。米農家はなおさら。地域や文化の視点からも改めて発信していこうと思っています。

夫婦で夢を叶えるために、決めた話合いのルール

敬二朗さん:岡山での経験や、田んぼでの気づきから、僕たちは「食と農で世界をよりよくする」というビジョンを掲げました。自分たちが食べていくということに加えて、社会の課題解決をベースにアクションしていく農園に進化してきたいという想いを込めています。

そして、ミッションとして「田んぼの価値最大化」を掲げました。「米農家」として、お米を作り出荷するだけでなく、稲作から生まれる様々な産物(ワラや籾殻、風景、体験)などその一つ一つに価値を見出していきたいと思っています。そしていつか、田んぼの真ん中にカフェをつくるのが夢なんです!

ハタケト:田んぼの真ん中のカフェ…すごく素敵です。パフご夫婦は共通の目標に向かって二人三脚で進んでいることがみていて素敵だなぁと感じています。どうやって2人の足並みを揃えているのですか。

真梨子さん:基本的にわたしたちは時間があればずっと話しています。

敬二朗さん:緊急・重要のマトリクスを書いて、緊急じゃないけど重要な話を意識的にしています。ビジョンやミッションに関わる話ですね。ほんとは毎日でもしたいのですが、こうして意識していても目の前の課題の話などでいっぱいになってしまうのですが。

真梨子さん:話し合いでは相手の意見を否定しない、というのもお互い大事にしています。わたしたちが掲げたミッション(田んぼの価値最大化)に対して具体的に何ができるのかを話し合っていますね。

子どもがいるから生まれる原動力

ハタケト:子育てもされているのと思うのですが、家庭の話と仕事の話、議題がぐちゃぐちゃになったりはしませんか。

真梨子さん:わたしたちは働くことが好きなので、ほっておくと起きている間じゅう仕事のことを考えてしまいます(笑)。だからこそ、仕事を考えることが、子どものことを考えることになるようなビジョン、ミッションを設定しました。

敬二朗さん:例えば、田んぼに触れたいと思っているご家族がいたとしても、今は触れられる環境って世の中にほとんど存在していないと思うんです。

農家が田んぼを開放してます!なんてことは聞いたことありません。「どうぞ入ってください」と言われたこともないし、僕が農家になる前は、人の田んぼに入ることって、誰かの庭に入っちゃうような感じがして、何の区切りもないのに、塀があるかのように感じちゃっていました。

ぼくらはそれを取っ払いたい。もっと田んぼに触れて、感じてもらえたら、田んぼの素晴らしさに気づく人も増えてくると思っています。こういう気持ちが湧いたのは、子どもが傍にいたからだと思うんです。

真梨子さん:夫婦で子どもの生きる世界がどうなっていて欲しいかを考えるのは素敵な時間だと思います。お互いにぶつかっても幸せな世界にはならないですから(笑)。未来に残したい風景とはどんなものなのか、子供たちに、どんな国を引き継いでもらえるのか。私たちの挑戦はこれからも続いていきます!

ハタケト:お2人とも、ありがとうございます!カフェ経営時代(詳しくは前編へ)は自分たちの活動の社会的意義を見出しにくく悩んでおられましたが、今は稲作農家として、子どものたちを持つ親として、未来のために、そして日本の文化や地域のためにも意義が腑に落ちていらっしゃる。だからこそ2人のパワーが存分に発揮できているのですね。素敵なお話、ありがとうございました!

(インタビューここまで)

そんな2人は今クラウドファンディングに挑戦されています。

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https://camp-fire.jp/projects/view/308802

Photo by Naoto Shimoda