このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

今回お話をお伺いするのは、宮崎県日南市でいちご農園「くらうんふぁーむ」を運営する渡邉茜さん。いちごがり写真館やマイナビ農業での4コマ漫画掲載など、どうやら一般的な農家さんと違いそう…?

栽培系の仕事は主に旦那さんが担当し、茜さんの担当は販売やデザインに関わること全て。社内の専属デザイナーをインハウスデザイナーと呼びますが、茜さんはくらうんふぁーむ専属デザイナー。そう、「農園インハウスデザイナー」なのです。「農園インハウスデザイナー」は今回お話をお伺いしている中で生まれたワード。

今回は茜さんに、デザイナーとして農業に関わる魅力をお伺いしました。

農園が「届けたい人に届く」をデザインする必要性

ハタケト :早速ですが、今までくらうんふぁーむのどんなものをデザインしてきたのですか?

茜さん:ジャム、ロゴ、ステッカー、パッケージ、4コマ漫画、パンフレット、名刺、HP、写真、空間、チョークアート、動画、歌詞、のぼり、ポップ、売り場づくり….収穫してからお客さんの手に届くまで全部ですかね!笑

ハタケト :そんなにたくさん?!笑 くらうんふぁーむさんと言えば、茜さんの可愛いイラスト入りのいちごと、いちご狩り写真館が印象的です。

茜さん:ありがとうございます。たくさん作ってき中で共通していることは、単におしゃれにするのではなくて、「届けたい人に届けたいものを届けたい時」にクリエイティビティを発揮しているということです。

うちの場合は、直売と観光農園でコンセプトをわけています。

直売では「60代のおばあちゃんに家で食べてもらいたい」と思っているんです。そのためおばあちゃんでも食べやすいようにパックの規格を一般的ないちごの半分の量にし、おばあちゃんがくすっと笑えるイラストがあったらいいなと思って作っています。

観光農園の場合は、お客さんがいちご狩りに来る理由はいちごをたくさん食べることではなく、一緒に来た相手との「思い出づくり」なのではないかという仮説から、「いちごがり写真館」というコンセプトで予約から帰宅後までのすべての「思い出づくり」の導線をデザインしました。

つまり、私のデザイナーとしての仕事とは、単にパッケージを美しくしたり、イラストを描くだけではないんです。

ハタケト :なるほど、どんな人に届けたいかを想像してから商品を設計しているんですね。

茜さん:はい。物作りの世界ではコンセプトメイクをしてから商品を生み出すことは当たり前だし、大事なことだと思います。

デザイナーはその視点を必ず持っているんです。デザインの主な役割は、問題解決と価値創造。「相手のイメージを言語化・可視化して届けたい人に届けること」がデザイナーの仕事です。

農産物直売所やECなどの直売が増えてきて、「農園の見せ方・売り方」が重要になってきていると思うんです。だから畑にクリエイティビティって求められていると思う。

美味しくないものを「美味しい」と伝えるのは違う。本来、作物が美味しくてそれを正しく評価する社会であれば、必要以上のブランディングって必要ないものかもしれません。ただ、すでにある魅力からいい部分をきりとって良さを最大限に活かすのが「デザイン」だと思っています。

「やりたいことがない」コンプレックスが導いてくれた道

茜さん:わたしやりたいことがないんですよね。自分のために目標を持ってがんばることに生きづらさを感じてしまうんです。

学校などでも、目標を持って生きることを強いられてきた気がするんです。やりたいことをもつべきという周りの風潮に苦しさがあり、自分を卑下してしまったり、周りのやりたいことがある人がキラキラして見えてしまったりしていました。

わたしは夢を描けない。やりたいことがない。
そのことをずっとコンプレックスに感じてきました。

いちご農園を経営しているのも、旦那がやりたくて始めたから。わたしの意思ではありません。

ただ、わたしは自分にはない熱い思いを持っている人、頑張っている人を応援したり協力するのは好きなんです。そのために、自分の持っているスキルでサポートをしたい。

ハタケト :そう思うようになったきっかけが何かあったのですか?

茜さん:実はわたしは高校を中退し、パン職人の修行をしていた時期があるのですが、そこで店長に看板を書いてくれと言われてチョークアートの教室に通ったんです。やるからには、とプロの資格もとりました。それで看板を作成したらとても喜んで貰えたんです。

大学生のとき入っていた食育団体(現在は一般社団法人)でもロゴを作成したのですが、喜んでもらえてとてもとても嬉しくて!

わたしは自己肯定感が低くて、自分のことがあまり好きではないんですよね。それでも自分が作った「誰かの思いを形に出来たプロダクト」は愛せる。それを仕事にできたらわたしは幸せだ、と思ったんです。

ハタケト :形にするサポート役にまわることで、やりたいことを描けない自分のコンプレックスを克服していったのですね。

茜さん:今でもやりたいことがないことはコンプレックスに感じてしまいます。克服はできていないかもしれません。でも旦那がやりたいことがありすぎるくらいな人なので、バランスが取れているのかもしれません。笑

ハタケト:同じようなもやもややコンプレックスを抱いている人は多いのではないかと思います。

茜さん:やりたいことが見つからないときは、とにかく何かを一定期間続けたり、スキルを磨いたりすることは突破口になると思っています。今連載させてもらってる4コマ漫画は、ただの個人ブログをでとりあえず書き続けてたら声をかけていただいて連載になったんです。

結婚して宮崎でいちご農家になる前は東京で広告制作の仕事をしていたのですが、スキルを磨き実績を積む期間がわたしには必要だったんだなと思います。

「直接会えるお客さんのためにつくる」デザイナーとしての最大のやりがい

ハタケト :東京で広告制作の仕事していた時と、農園インハウスデザイナーとして働く今を比較して変わったことはありますか?

茜さん:東京時代は求人広告の会社で、コピーライティングやデザイン、動画の作成などを担当していました。

一番変わった点は、クライアントと届けたい相手(ユーザー)の顔が明確に浮かべられるようになったことです。クライアントは自分自身の農園、ユーザーは直売や観光農園のお客さん。

うちは観光農園と直売だけなので、売り場にいけばお客さんに会えます。自分が作ったものが上司ではなくダイレクトにお客さんに届き、評価がすぐ耳に届くようになったことにデザイナーとしてのやりがいを感じます。

ハタケト :確かに、ユーザーとの距離が近いですね。

茜さん:会社員時代は、違和感の感じる仕事も見て見ぬ振りをすることもありましたが、今は仕事の全てが暮らしに直結しているので、自然と全てに愛を持てています。

お客さんの顔が見えるからこそ、稼ぎのためだけじゃなくて本当にいいものを届けたい。いいものを作りたいという気持ちだけでデザインできることは幸せです。

あとは誰とやるかも大事。旦那は一番信頼できる人だし、熱くてやりたいことがたくさんある人なので。旦那のイメージを超えたより良いものを作りたいという気持ちもあります。

「農園インハウスデザイナー」ならではの強み

ハタケト :農園インハウスデザイナーとして働く面白さはどんなことがありますか?

茜さん:そもそも農業自体がとてもクリエイティブなんですよね。畑はそれぞれ農家の哲学によって絵が変わっていくキャンバス、農家はそこに描いていくアーティストだなって。

畑の表情って、1日として同じ日はないんですよ。毎日同じ時間に畑に行くことで、日々の小さな変化を感じられるんです。同じ日でも、朝と昼と夕方では葉っぱのしなりがちがう。根っこの状態を見て元気だな、とか。

そういう変化に気付けるのは、常日頃から畑を見ているからこそ。例えば、写真映えする瞬間があれば旦那から連絡もらって畑に写真を撮りにいくんです。魅力をすぐに発見・共有してアウトプットできる環境にいるのは、農家にとってもデザイナーにとっても幸せなことですね。

日々の小さな変化を感じて、より畑の魅力を伝えられることは農園インハウスデザイナーの最大の面白さだと思っています!

ハタケト :なるほど、農家的な視点とデザイナー的な視点を持ち合わせているからこそなせる技ですね…!農園インハウスデザイナーならではの強みはありますか?

茜さん:スピード感が最大の強みかなと思います。いちごが多く出来過ぎてしまい急遽対面販売することになったときなど、ポップが3時間後に必要になることも。そういうとき、10分程度でポップを作成したとしても、一定のクオリティーの担保ができる。

それだけでなく外部デザイナーに依頼すると、まずは農園や私たちの想いを知ってもらうことにとても時間がかかります。常にお互いの考えは共有しているので、すぐに形にできる。

家族経営なので失敗も許されるし、常に実験的しながらアウトプットができるのも強みですね。7.8割の完成度で一度形にして、お客さんの反応を見ながら調整していきます。うちなんて今までに3回ロゴを変えてるんですよ。笑 

外部デザイナーにそこまで依頼するとコストがかなり嵩んでしまいます。直売がメインの農家はインハウスデザイナーが絶対必要だと思いますね。

畑から地域へ。スキルを活かした仕事の拡張

ハタケト :茜さんは農園以外のデザインのお仕事もされているんですよね?

茜さん:農園のデザインを頑張っていると、それがいい感じにわたしのポートフォリオの役割を果たしてくれ、地域の仕事の依頼も舞い込むようになりました。

いちご農園のために看板を書いてたらチョークアートの依頼がきたり、農園のHP作成してたらWebサイト作成の依頼がきたり、ブログで漫画を描いてたら4コマ漫画家になってたり。

わたし自身も、「旦那の嫁」という認識しかされないのは嫌だったんです。わたしが日南にいる価値を感じていないと不安になるので、そうした「渡邉茜」としての仕事もしながら自分が納得できる生き方を目指したいと思っています。

とはいえ、何でもがむしゃらにやるということはなくて、「熱い思いを持った人を手伝うことで、新しい価値を生み出す仕事」という基準はもっています。

せっかく移住したので、会社に入って代替可能な仕事をするのはつまらない。自分もやりがいがあって、応援したい人を応援することによって、結果的に地域のためになっていると実感しながら働いていたいです。

(インタビューはここまで)

農園インハウスデザイナーは、日々表情が変わる畑の魅力を最大限伝え、誰かの訳に立っていることを直接感じることが出来る。もしかしたら畑は茜さんのようなマルチデザイナーにとって最高の場所かもしれません。

皆さんも「農業×クリエイティビティー」の広がる可能性にご注目ください。