このマガジンは「畑のそばに生きる様々な人」と「その暮らし」の紹介を通じて、皆さんと一緒に生き方の選択肢を再発掘していくメディアです。

今回お話をお聞きするのは熊本県で桃、すもも、キンカン、横綱みかんなどの季節果物を生産するハナウタカジツさんです。ハナウタカジツは「会話が弾む贈り物」をコンセプトとする農園。オンラインの販売も人気で、Instagramを中心にSNSには「#ハナウタカジツ」をつけて、かわいい季節果物を食べる喜びの声が溢れています。

(桃の時期、きんかんの時期。それぞれの果物の色に染まってかわいい!)

そんなSNSで愛される人気の農園ですが、園主の片山さんはご自身のことを「極度の飽き性」だと言います。一見毎年同じ作業をこなす農業は飽き性だとつらいのでは?と感じてしまうのですが、片山さんは飽き性だからこそ、農家という職業をおすすめしたいのだそう。一体どうしてなのでしょうか。

ハナウタさんの話を聞くと、ステレオタイプな農家像とは異なる、現代版農家の姿が見えてきました。

飽き性すぎて夢破れた青年期

ハタケト:片山さんはご実家が代々の農家でいらっしゃいますよね。家業を継ぐことはいつ頃から意識されていたのでしょうか。

ハナウタさん正直、学生の頃は「あんまり農家にはなりたくないな」と思っていました。中学校の頃、部活で遅くなった時の迎えに自分の親だけ軽トラックでくる。それを当時は「恥ずかしいな」と思っていました。実際に就農したのは22歳の時ですが、直前まで農家という人生を自分が選択するとは思ってはいませんでした。

ハタケト:農家になるまでは何をされていて、そこから農家になるきっかけはなんだったのでしょうか。

ハナウタさん:高校は進学校に進んだのですが、そのあとは大学には進学せず、コンピューターの専門学校にいきました。そこに2年ほど通い、その後就職はせず、フリーターとして近所のスーパーで2年ほど働いていました。進学校に進んだのに専門学校へ、専門学校に進んだのにフリーターへ。このちぐはぐなキャリアを歩んできた理由は、ひとえにわたしが「飽きっぽい」からです。(笑)

自分でいうのもなんですが、受験を控えた高3の夏の時点の成績はいい方でした。しかし、受験用の勉強に飽きちゃったんです。専門学校でも成績はトップだったのですが、これもまた飽きてしまって。小さい頃からわたしは新聞記者になりたい、ケーキ屋さんになりたい、デザイナーになりたい、教師になりたいなど、たくさんの夢を描いてきました。しかし飽き性がゆえに、専門学校を卒業した時点で、自分には就職する宛がありませんでした。それでも農家になるのは嫌だったので、地元のスーパーの魚屋担当として働くことにしました。働いていると、例えばイカに「アフリカ産です」という原産地表示が義務付けられたことがあったのですが、表記のありなしで売れ行きが変わるということに気づいたんです。商売の面白さに惹かれるようになっていきました。自分でお商売をやってみたいという気持ちが高まり、家業を手伝うようになったんです。

そこから18年、農業は飽きずに続けることができています

(もうすぐ父の日!父の日ギフトとして用意されたハナウタカジツの桃たち)

農園にいながら、何にでもなれる

タケト:今までのお話を聞くと、18年も農業を飽きずに続けてこられているのが不思議に感じてしまいます。

ハナウタさん:そうですよね。うちは毎年農産物を育てて採りきる野菜とは違って、10年20年と同じ木々から収穫する果樹の農園なので、飽きたからといって投げ出せないというのもあるのですが、極度の飽き性の自分が苦を感じずに18年も続けられてこられているのは、何にでもなれるからです。

ハタケト何にでもなれる?どういうことですか?

ハナウタさん:先ほど、青年期に夢破れたという話をしましたが、農家になって夢をむしろ叶えることができたんです!

例えば、教師になりたいという夢。現在うちの農園では毎年地元の農業高校から泊まり込みの実習生を受け入れているので年に数日間は教師としての体験ができています。

うちの果物を使ったスイーツをケーキ屋さんと共同で開発する時には、ケーキ屋さんになれた気分になりますし、農園のリーフレットをつくるとなれば、デザイナーになった気分も味わえる。テレビの取材をうけるとなれば、テレビに出演するタレントの体験さえできてしまう。農園にいながらいろんな職業の体験ができるから、破れたはずの夢をひとつひとつ叶えることができているんです。

(ハナウタカジツの桃を使ったフルーツサンド)

それどころか、高校生には悪いですが、例えば農業実習となると、1日目の夜には正直先生体験にはもうちょっと飽きているんですね。(笑)だから、農園という基盤を使って、いろんな職業をちょこちょこつまみ食いのように代理体験できる、この程度が飽き性の自分に合っているんです。

SNSは時間・場所を超えた代理体験の宝庫

ハタケト:ハナウタカジツさんはSNSをとても上手に使っていらっしゃる印象なのですが、それも何かの職業体験の感覚なのでしょうか。

ハナウタさん:SNSは職業体験というよりは、もともとインターネットがコンピューターの専門学校に行くくらい好きなので、発信を始めた形です。

SNSを介して飲食店や個人の方と繋がり、コラボが生まれていくと、自分は熊本にいるのに、「ハナウタカジツ」は一瞬で東京でもどこへでも行くこともできます。時間も場所も超えて、新しい代理体験ができるのは働く楽しさになっています。

最近は昔夢を見ていたかは関係なく、新しい代理体験をすることで、むしろ新しい夢がどんどん湧き上がっているような感覚で、楽しいです。

(なんと、SNSを通じて銭湯ともコラボをされたのだそう。)

ハタケト:農園にいながら、様々な代理体験ができる。とても素敵です。

ハナウタさん:農園にいないといいものは作れないので、農園を離れることはなかなかできませんからね。代理体験のメリットはわたしももちろんですが、お客さんにとっても魅力があると感じています。例えば、インスタグラムのハッシュタグでハナウタカジツを見ると、どこの誰とも知らない人だけど、同じ果物を食べていることは分かる、そういうゆるいコミュニティができています。

例えば地方で近所づきあいに閉塞感を感じているような地方在住の方でも、「ハナウタカジツ」を通じて、華やかな東京の暮らしをする人と距離の壁を超えて繋がることができたりします。同じ果物を食べている、その程よい繋がりが気持ち良い代理体験を提供することになると思っています。実際ハナウタカジツをこう食べたよ、という見ず知らずの人のSNS上の交流が生まれたりしているのを目撃したりもしました。

市場競争は、届ける相手を置き去りにする

ハタケト:ハナウタカジツが前面に伝えている「会話が弾む、贈り物」という言葉が特徴的だと感じているのですが、ここにはどんな思いが込められているのでしょうか。

ハナウタさん:いい意味での諦めがこの言葉を生みました。一つは世の中に対する諦め。極論を言うと、今の世の中果物は食べなくても生きていけると思っています。ビタミンCを摂りたいだけならサプリで足ります。そんな世界で果物に何ができるかを考えたときに、つい鼻歌を歌っちゃいたくなるような、豊かな気分そのものを提供することができることなのではと思い至りました。

もう一つは業界の中で戦うことに対する諦めです。ハナウタカジツはよくブランディングができているね、と言われたりするのですが、それは同じ果物の農園との競争を考えていないからだと思います。今、果物業界の差別化の指標は「甘い」か「安全」かが主。みんながそこで戦っているのですが、正直、日本の農家はみんな勤勉なので、そこで大きな差はあまり生まれないんです。この区分の中で戦うと、異常気象が起きてしまえば一気に価値が揺らいでしまい、農家も疲弊してしまいます。

そんな業界の指標の中で戦うことへの諦めが機能的なことではなく思いを提案していこうと思ったきっかけです。

ハナウタカジツは果物そのものではなく、会話が弾んでいるような風景そのものを売っているんです。

(ハナウタカジツのお届けしているハナウタ気分を伝えるイメージ動画も。)

ハタケト:どんな業界でもつい市場の競争の軸にとらわれてしまいがちと感じます。そこで戦うのではなく独自の提供価値を見つけられているのは素晴らしいですね。

ハナウタさん:競争をすると競争相手のことばかり見てしまって、届ける先の相手のことをちょっと忘れてしまうと思うんです。わたしの場合は楽しくて、自分のためにSNS発信をやっていたのですが、そのおかげで、届ける相手を見る癖がつきました。

ハタケト:最近片山さんは農家同士がSNSで繋がる「#農家の朝礼」というハッシュタグも作って農家の発信の支援もしていますね。それはどういう意図があるのでしょう。

ハナウタさん:農作業ってやはり単純労働なので、それだけだとすごく退屈なんです。飽き性なわたしには特に。でもSNSがあるからこそ届ける相手を見失わずに楽しく農業ができています。届いた先の人から反響が届くのは大きな喜びにもなっています。SNSのない時代に農業をしていたら、楽しみはないに等しかったのではないかと思うほどです。だからもっと発信することを楽しめる農家が増えてくれたらいいなと思っています。SNSなら土地に縛られる農業でも、距離の壁を超えて新しい世界と繋がっていくことができます。むしろ農産物だからこそ、エリアや年齢、性別を超えて繋げてあげられる人たちもいると思うんです。

食べる人にも農家にもその醍醐味をもっと感じてもらえたらと思いますね。

(インタビューここまで)

農家というと、自分の畑で単純労働を繰り返しているという固定概念がありがちだと思うのですが、今回片山さんからはいろんな職業にもなれて、場所を超えてあらゆる人と繋がれる、そんな新しい農家像を教えていただきました。農家のどんどん働き方も進化している!職業としてさらなる魅力を感じさせられました。